orange,９ ページ12
「ただいま」
家に帰り、コーヒーを淹れてから自室の扉を開く。
Aはココアが好きだったっけ。
冬なると毎年自販機で買っては飲んでいて、幸せそうにしていたっけな。
マグカップを置いた勉強机に、さっきもらったノートを広げる。
湯気をたてたコーヒーの香りが、部屋中にたちこめていった。
三日月島。懐かしい言葉に、思わず「懐かし」と声を漏らす。
中学のころ流れた噂…というか、なんというか。
たしか、付き合って少し経ったころにクラスで流行った、あの話のことだったと思う。
『夕日の綺麗な日に、好きな人と渚鳥の飛ぶ方向にある三日月島へ行くと結ばれる』
こんな感じの、噂だったと思う。
そのことを２人でいつか話していて。
「三日月島、行ってみたいね」
なんて言ったAのために、２人で探しに行ったんだっけな。
翳る夕日とかすかな月光に照らされた渚鳥に、仙台の綺麗な海。
夕日の反射する海のオレンジ色が、砂浜の黄土色が、すべてすべてが鮮やかに見えて。
潮風に、夏の夕暮れの少し涼しげな温度。
肌を撫でる風が、どこまでも、どこまでも、透き通って見える。
繋いだ手の温もりも、淡い水彩画のような夕日も、どこまでも愛おしくて。
小さな、探険のようなデート。
新鮮で、どこまでも愛おしいモノで。
気付いたら、蔦に飾られた不思議な教会に着いたんだっけ。
その雰囲気のおかげで足を踏み出すのを躊躇ったことも、今ではいい思い出。
プレゼントしたネックレスは、デートの時にはいつもつけてくれていた。
それが本当に嬉しくて、なにより愛おしくて。
あの笑顔がとても愛おしくて思わず抱きしめたことも、「好きだよ」って囁かれた言葉も、初々しかったファーストキスも、全部大切な思い出になっていた。
大人になったらこんな所で結婚式挙げてみたいね。
じゃあ大人になったら挙げるか、こういう所で。
プロポーズみたいな言葉だね、なんてAが笑っていたところで、またデートしよっかって、ガキみたいな約束したんだったな。
誰も満たされはしない、最期。
それよりもずっと思っていた、幸せな最期だけを温存して。
あの中学の頃の悪夢を見た俺にかけてくれた、暖かい言葉。
「飛雄は、悪いことしてないよ。王様なんて呼ばれても、きっとその理解者が現れるはず」
そんな俺を支えてくれたAのいない喪失感だけが、俺の心を渦巻いた。
新年のご挨拶→←orange,８.５ 【クリスマス・影山誕生日番外編】
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しょうどうぶつ(プロフ) - ラテ。さん» 是非読ませていただきます！ (2018年11月9日 22時) (
レス) id: 4dcfc1ef4e (このIDを非表示/違反報告)
ラテ。(プロフ) - しょうどうぶつさん» コメントありがとうございます！感動して頂いたようで嬉しいです！ハイキューなら他のものも書いていますので、もしお手すきでしたらお読みになって貰えると嬉しいです('ω')こちらこそ参加させて貰ってありがとうございました！ (2018年10月25日 23時) (レス) id: 09073fe647 (このIDを非表示/違反報告)
しょうどうぶつ - 飛雄〜！最高です。感動しました。.....参加ありがとうございます。 (2018年10月25日 23時) (レス) id: 4dcfc1ef4e (このIDを非表示/違反報告)
ラテ。(プロフ) - 親方さん» ありがとうございます！ 言葉の使い方はかなり意識してるので、誉めていただけるなんて光栄です！ 純真無垢に相手を想う飛雄ちゃんは書いてて楽しかったですよ(笑) (2016年4月19日 17時) (レス) id: 09073fe647 (このIDを非表示/違反報告)
ラテ。(プロフ) - 夜月さん» ありがとうございます！ 涙腺ぶっとびましたか、人を泣かせるのはいけないことですよねw お気に入り押されたっとな(笑) (2016年4月19日 17時) (レス) id: 09073fe647 (このIDを非表示/違反報告)
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