星屑の水槽 (ページ7)

今日:4 hit、昨日:3 hit、合計:15,150 hit

7. ページ7

結局ジョンハンさんのメッセージに気づかないまま仕事を続けていたら、残業もすることになってしまって時計の針は20時を指していた。

連日の勤務でふらふらになりながら医局を出ると、そこにはすらっとした後ろ姿があった。

「あ、Aちゃん。お疲れ様。」

彼も私と同じように相当疲れ切っていて目の下には僅かに隈が見えた。それでも私の姿を見て安心したように笑ってくれた。

「心配しちゃった。ごめんね。何かあったんじゃないかと思って。」

そうだ。私たちの出会い方があんな形だったのだから連絡ひとつでもジョンハンさんからしてみれば不安なのかもしれない。

さすがに失礼だったなと反省して謝るとじゃあメッセージの返事今ちょうだい、と言われた。確認してみると、「今日ディナーを一緒食べに行かない？？都合さえ良ければ」というお誘いだった。

「俺は明日休みだけどAちゃんはどう？？休みじゃないなら別日にしよう。」

誘っておいて私の勤務を気にして不安げになるのも可愛くて少し笑ってしまった。大丈夫ですよ、行きましょうと言えばまた安心したように微笑んでくれた。

「ディナーっていってもそんな大層な場所じゃないんだけれどね。お気に入りのお店があるからAちゃんにぜひ食べて欲しいんだ。」

お気に入りをそんな簡単にわたしに教えてくれることに少し期待をしてしまった。車を運転する横顔を見惚れていたのも彼はきっと気づいていたけれど、夜の喧騒はきっとそれを消していてくれていたはずだ。

「美味しそうですね！こんな素敵なお店紹介していただいて光栄です。」

「そんな堅くならないでよ。ほら食べて、本当に美味しいから。」

相当美味しいお店なんだろうなと思ってはいたがそれでも想像を優に超える味だった。個室で周りから隔たれて仕事の疲れが少し癒されたところに、ジョンハンさんの神妙な声が響いた。

「本当に大丈夫だよね、心配なんだ、ごめん。」

思わず食べ進める手が止まる。あなたのことを好きになってしまったから、なんて言えない。忙しかっただけですよ、と言えば腑に落ちない顔をしていたが納得はしてくれた。

食べ終わって何気ない話をしている時のことだった。

「ねえ、」

ジョンハンさんの綺麗な、でも男らしい腕が私の手首を掴む。

「もしも好きだって言ったら、どうする？」

彼の瞳孔は揺れている。きっと、私の瞳孔も。息を呑んで、二人の時間が止まった。