星屑の水槽 (ページ5)

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しばらく経つと、お互いに忙しくなってジョンハンさんと話す機会も少なくなった。

仕方ない。ドクターヘリが飛ぶくらい大きな病院で、脳外科も救命もそもそも忙しいのだ。

ジョンハンさんと話せていないことは決して嬉しいことではなくむしろ話したいくらいだったけれど、次から次へと来る患者さんの治療にあたっていたら考える機会も少なくなった。

最低限の音しか聞こえないくらい集中していたら、ガシャンと何かが落ちて割れる音がした。

「チェAさん、すみません....。」

まだ医師としてはひよっこの女の子が涙を溜めてこちらに助けを求めてくる。多少は動いてくれ、と思ったし、ため息をつきたかったけれどそんなことをしたところで状況は変わらないので片付けを始めた。

動いているのは私だけ。この子も動いてくれたらいいのに。そこで突っ立って泣いてても周りの邪魔だよと言いたかったが生憎声を張り上げる元気もない。そんな間にも彼女はあわあわしている。

「あのさ、申し訳ないって思ってるなら棒立ちやめてね。」

やってしまった。こういう時代だからパワーハラスメントだとか言われるに決まっている。私の一言でいよいよ涙腺が決壊してしまったのか彼女は走ってどこかへ行った。むかつくやつだ。

事が落ち着いたら案の定偉い人に呼ばれた。新人のミスなのに「お前がよく見てなかったからだろう」なんて言われてしまった。

最近、踏んだり蹴ったりだ。ジョンハンさんとも話せていないし。

『ジョンハンさん、久しぶりに会いたいです』

ここまで打ってやっぱりやめておこう、としたら間違えて送信してしまった。

そして彼も仕事終わりなのか既読がすぐに着いた。

『Aちゃんからって珍しいね。何かあったの？』

『駐車場にいるよ。待ってるね。』

そう言って車の色とナンバーを教えてくれた。

「ごめんなさい、仕事終わりで疲れてますよね。」

「ん、いいよ。それに、Aちゃんがこの前俺の話聞いてくれたらそのお返し。」

事の顛末を話すと最低だな、なんて共感してくれた。ジョンハンさんはその新人どうするの？なんて言ってくれた。

「でも、大丈夫です。ジョンハンさんに話せて少し気が楽になりました。」

「それならよかった。何かあったらすぐに言ってね。心配なんだ。すぐに消えちゃいそうで。」

そういう彼も、消え入りそうな笑顔で笑った。