星屑の水槽 (ページ4)

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「ねえ、なんでスンチョル泣いてるの、」

いつだって人前で泣くことが少ないスンチョルが静かに涙を流すのを見るのはほとんど初めてだった。

「なんでもないよ。そのままの意味、俺はAに生きてほしいだけだから。」

「ユンジョンハンのことをちゃんと大切にして、そしてちゃんと幸せにしてもらってな。」

ああ、これがスンチョルなりの優しさで私への気遣いなんだと思った。ただそれに返す言葉は私の語彙では見つからなくてただ「うん、」とだけ返事をして帰路に着くことにした。

「ジョンハンさん、お久しぶりですね。」

久しぶりと言っても金曜日の夜スンチョルと飲みに行って、土曜日は休みでそしてこの日曜日なのだけれど。

「ジョンハンさんは、ずっと仕事だったんですか？」

いつもよりも顔色が悪くて疲れきったジョンハンさんに思い切って聞くと、昨日は10時間ほどの長丁場の手術だったらしく、エナジードリンクを体に流し込んでの勤務だと言った。

「執刀医は俺じゃないんだけどさ、手術受けたのが高校三年生の受験を控えた子で。精神的にもしんどかった。俺のせいで大学受験も受けられなくなって人生めちゃくちゃになったらどうしようって。」

私の弱音はたくさん吐いてきたけれど、ジョンハンさんの話を聞くのは初めてだった。

私は脳外科の実情には詳しくないし、ジョンハンさんほど優秀な医師ではない。

それでも、私だったら。

「きっと嬉しいんじゃないですか、その子は。救えてもらえて。」

医師じゃなくても言えるような言葉だし、考えるよりも先に出てきたような言葉。

それでも彼は控えめにふわっと笑った。

「ありがとう。Aちゃんも仕事の悩みとか話してもいいんだよ。」

いい年して、ひとりに心を奪われる感覚がした。

「じゃあたくさん相談させてくださいね。この前、学生時代の友人にも言われたんです。ジョンハンさんのことを話したら、その人言ったんです。頼って、大切にしてもらって、って。」

スンチョルのことだ。スンチョルが私にくれた言葉。

そうしたらまるで王子様みたいに、

「仰せのままに。」

「だってAちゃんはいつも俺の欲しい言葉をくれる。俺も、Aちゃんが欲しい言葉をあげるよ。」

なんて言って笑って、彼の笑顔が私をゆっくり包み込んだ。