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激しく混乱する頭。何を信じたらいいのかわからない。
「言いにくいけど。あんたのボスはな。相当な悪党やわ。」
そんなわけない。会える時は学校の寮にまで来てくれるような人やで？俺のことを本当に大切にしてくれた優しいボス。
「…愛国心で動いてるんです。」
「相当ひん曲がった愛国心や。」
「優しい人で…」
「大勢の奴が殺されてきた。」
「スパイの組織ですから。」
沈黙に包まれる。そりゃそうやろ。スパイはそういう仕事や。俺だってどれだけの人間を…
「まぁ、何を信じるか今の状況では難しいわな。でも司令が出たで。大倉さんのことを捕らえろって。」
「…」
「抵抗する場合は虫の息でもいいらしい。政府も動くみたいやな。」
「…」
「ゆっくり考える時間があるかわからんけど、とりあえずここで匿うから。」
虫の息か…。ボスのあの笑顔も、心配そうな表情も、全部俺を懐柔するためやったんやろうか…
「マンションは政府の奴らがもう押さえてる。銀行なんかももう使われへんやろ。あんた金ある？」
「国外の銀行に預けてます。」
「やるなぁ。持ち金は？」
「ここに。しばらく生活するだけの金はあります。」
「ほーか。ま、金なんかこっちでもなんとでもなるけど。人間関係は？」
人間関係…。考えてみて気づく。心配する人も心配してくれる人も、今の俺にはいない。
「大丈夫です。」
うつむいて答える俺をどう思ったのか。村上さんの手が優しく背中にふれた。
「部屋、案内するわ。」
うながされて立ち上がる。そうや、横山さん…
「横山さんは大丈夫なんですか？」
「色々処理をしてこっちに向かってる。大丈夫。無事や。」
「そうですか。」
俺が組織に入ったときには若手のスパイとしてすでに有名だった横山さん。潜入捜査をしながらマカリオスでの任務もこなしていたのか。すごい人やな。
「ここ、自由に使って。」
あてがわれた小さな部屋。窓はないが清潔で雰囲気が明るい。
「自由…か…」
戦争で両親を失ったと思ってた。それをボスが引き取ってくれて…。今までその恩を返すために頑張っていたのに。
俺はこれからどうしたら…。いや、違う。ボスが悪者やなんて、村上さんが言うてるだけや。信じたらあかん。あかんけど…
疲れ果て、それ以上何も考えられず無意識に向かったベッド。
俺は何のために…
体の力が抜ける。そのまま柔らかいベッドのぬくもりに倒れ込んだら、一瞬で眠りに落ちていた。
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作者名：orange | 作成日時：2023年12月29日 23時
