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「あれが王妃か…。俺、別に似てないやん。」
「めっちゃ似てる。俺、美術館のその絵を改めて写真で見た時、マルやって思ったもん。ボスは、自分が惚れた大昔の王妃とマルを重ね合わせてたんや。」
「王妃と俺を…?」
「そう。だからあんなに執拗にお前を…、あ…その…」
言い淀む大倉。俺とボスの事なんて組織の奴のほとんどが知ってるやろ。言い淀む必要なんてないやん。
「それが俺を連れてきた理由?ボスをおびき寄せるために…」
「それは違う。お前をそんな所から救いたくて…」
「救う…?」
「…」
じっと床を睨みつける大倉。なんやろ…救うってどういうこと?
「ごめん…」
短く呟かれる謝罪の言葉。
「…なんで謝るん?」
「…」
また黙ってしまった大倉は、悔しいのか怒っているのか、複雑な顔をしている。ボスとの関係を知っていたことの謝罪?なんでそんな顔をするんやろう…
「みんな知ってることやろ?そういう関係やって。ボスと出会ってからずっと。もうどうでもよかってん。何の感情もなかった。ただ…されるまま。」
「マル…」
そう…もう、何の感情もなかったわ…
電話がかかってきて、飯食って。ボスの屋敷の奥はあんなに豪華やのに、いつも薄暗かったな…
「え…」
ベッドに腰掛ける俺に大きな影が重なる。そのままそっと頭を包まれた。
「覚えてないわけないやろ。何の感情もないわけない。悔しいに決まってる。怖かったし、気持ち悪かったし、めっちゃ…めっちゃ嫌やったやろ。」
鼻をすする音。震える声。あったかい体。耳に届く言葉が頭の奥にゆっくりと染み込んでいく。
「…大倉…」
「誤魔化すなよ。嫌なもんは嫌でええねん。お前のこと、お前がもっと守れ。」
涙が流れた。なんや知らん、すーっと止めどなく流れていく。そのうち肩が震えて溢れる感情を止めることが出来なかった。
「そうや。泣いてええねん。俺が全部隠しといてやるから。」
しがみついてた。大倉に縋って、その体に顔を埋めて泣いた。嫌で嫌で逃げ出したくて、でもどうしょうもなくて。
「マル。よぉ耐えたな。もう戻らんでいい。」
ここにおってええんやろうか…いや、俺なんて…。グラグラと気持ちが揺れ動く。
でも。大倉の体温が、俺の辛さも迷いも全部あたたかく包んでくれる。
「一緒にこれからの事考えよ。」
心を和らげる優しいその言葉に、涙を流しながら自然と頷いていた。
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作者名:orange | 作成日時:2023年12月29日 23時