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橙サイド
「隆平!」
「母さん…」
俺に覆いかぶさって泣き続ける母さん。よかった。これで母さんは救われる。
「隆平…ごめんね……」
「母さんがなんで謝んねん。無事でよかった。」
「あんたはほんまにいつもいつも人のことばっかり…」
「人って…母さんやん。」
「小さい頃から何でも人に譲って、人を庇って。結局こんなになるまで頑張って…」
母さんには、俺が向こうの国で脅され、辛い仕事をさせられ続けて体を壊してしまったと伝えてくれているらしい。
「母さんが脅しの道具に使われてたなんて…。私のことなんてどうでもよかったのに。」
「母さん…そんなこと言わんでええ…」
「苦労かけたのに、私のこと楽させたいっていつも頑張ってくれてた。もうええんよ。攫われてきた時のこともほとんど覚えてないから気にせんでいい。」
「ん…」
「隆平。あんたの人生、ちゃんと生きてほしい。楽なんてええねん。あんたの幸せが1番嬉しいんやから。」
真っ直ぐな母親の言葉に曇っていた心が晴れていく。
「ありがと…母さん…」
「ありがとう、隆平。またこれから母さんも頑張るし。」
「ん…そやな…俺も……」
「隆平?」
「お母さん、マル、疲れたんやと思います。」
大倉の声…回復したら…俺には何が出来るやろ…
「マル?寝ていいよ。ゆっくりな。」
優しい声に自然と手を伸ばしていた。その手をそっと預かってくれる温もり。その持ち主の笑顔を思い浮かべるだけで心が満たされた。
◇
緑サイド
「王家の血筋?」
「そうです。何かご存知ありませんか?」
母親から聞かされた父親の姿は、いわゆるどうしようもない奴やった。家の金を使い、あげく何処かへ消え、事故にあってこの世から消えてしまったらしい。
「そんな由緒正しいことは微塵も。この国の王家なんて、建物とか美術品くらいしか残ってないでしょう?自分らが関係あるなんて考えたこともないです。」
「そうですか。では、この人物に覚えは?」
出されたのはボスの写真。隠し撮りされた画像をコンピューターで若くしたもの。
「ん〜…わからんなぁ。」
「そうですか…。では、丸山さんが小さい頃はどんな子でした?」
笑顔でマルの幼い時の様子を語る母親。その話から、優しく、穏やかな少年のマルが想像できる。
「毎年の健康診断はいつも健康優良児って言われてました。何もええもん食べさせてなかったのにね。」
「学校の健康診断ですか?」
「いえ、国の。」
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作者名:orange | 作成日時:2023年12月29日 23時