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「まぁ、うちに限ったことではない。隣国も同じようなもんやで。」
「それもそうか。」
政治に詳しいすばるくん。こんな人が国の中心にいてくれたら…
「すばるくんは政治家とか役人にはならんの?」
「性に合わん。その代わり、大学を作って政治に興味のある奴の支援をして育ててはおる。あと数年したら優秀な奴が出てくるわ。」
「お〜!」
「そうなったら、俺らは食いっぱぐれるかもな。」
優しいすばるくんの視線の先にはどんな未来があるんだろう。
「そうなったら理想やな。」
「フ…お前、あんな奴に育てられたとは思われへんええ奴や。」
頭をポンポンと叩かれて、何とも言えない気持ちになる。
「ボス…優しかったんですよ。でもマルは…」
父親の姿の裏で、マルに恐ろしいことをしていたボス。極端な二面性に、ボスという人間が全くわからなくなった。
「ヤバイ奴って何重人格にもなれるんやと思う。」
そういったすばるくんは、何でか申し訳無さそうな顔をしていた。
◇
「大倉…」
「どうした?起きるか?」
「ん…トイレに…」
「間に合うか?」
背中を起こし、その姿勢に慣れるのを待ってベッドに座らせる。全身を俺に預けて、ようやく立ち上がり、俺の支えで動く。
これが何と言うか…何とも言えん!
「よく出来ました。」
「…フ…」
「ん?」
「子どもちゃうし。」
「子どもみたいなもんやん。1人ではまだ何も出来ひんねんから。」
「…」
「どうした?」
「いや。」
ベッドに横になったマルの寂しそうな横顔。触れたくて手を伸ばしそうになるのを、何となく躊躇して思いとどまった。
「マカリオスに…帰りたい。」
「…ほんまに言うてる?」
俺から表情を隠すように反対側に寝返りを打つ。寂しそうな雰囲気が、あの王妃の肖像画と重なった。
「こんな穏やかさには絶えられない。」
「マル…」
今度は考える前に腕が動いていた。そっと肩に触れる。
「到着が遅れてるけど明日には母親にも会える。もう向こうに行く意味がないやんか。」
「ここにいる意味も俺にはない。」
「それは…」
「俺が攫われた理由は?ボスへの挑発?」
今度は俺が黙る番。マルを純粋に救いたかったなんて…そんなん俺の勝手な感情や。
「俺の生きる意味はどこにあるんやろ…」
何も言えずに時間が過ぎる。そのうち眠ってしまったマル。
なんでやろ。儚くて消えてしまいそうなこの人を放っておけない。何とかして救いたい。その思いが俺の中で強くなっていた。
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作者名:orange | 作成日時:2023年12月29日 23時