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「それはそうでしょう。危険しかないやないですか。」
「母親を人質にしてる。」
「人質？…マルはずっと脅されてるってこと？」
「まぁ、そうなるな。ボスはマルを手に入れるために国も黙らせ、マル自身も黙らせた。」
「なにそれ…」
「お前が父親と慕っている人は、この国を裏で牛耳る恐ろしい人や。他人の人生なんて簡単に変えることが出来る。」
「でもボスは…」
「愛国心に満ちた人…か？」
「そうです。」
「お前にとってはそうやろ。でもマルや家族はボスのために犠牲となった。」
「…」
温厚で慈愛に満ちたボスは、ただの一面でしかない…？確かに、そうであってもおかしくない。裏の社会を支配するなんて、生半可なことじゃないんやから。
「母親は無事なんですか？」
「田舎のほうにおって、不自由なく暮らしてる。手紙のやり取りと、年に数回会うくらいかな。」
「詳しいですね。」
「教育係やからな。」
「…何を教えるんです？」
「愛国心とでも言うとくか。」
「え？」
「母親は精神的に不安定な状態でここに来て、マルがボスに救われたという話をすると簡単にこっちの思惑通りに染まった。マルがエリートになって働いてると思ってる。」
「マルは？」
「あいつはまぁ、母親の安全のためにずっとボスのいいなりになってる。」
「それって、つまりボスの相手を…」
「そう。」
「…」
「ちょっと衝撃が大きかったか？でも、知らない世界を知って１つ大人になったやろ？」
「は？なんですか、それ。」
「スパイの世界なんて狭いもんや。アンテナをはれ。馬鹿なふりをしろ。」
「うわっ！」
コップが倒れて俺の方に酒が盛大にこぼれる。
「ちょっと…」
「油断するな。お前、狙われてるぞ。」
「え…」
悪い悪い！と大げさにタオルで机を拭きながら、ほんとに一瞬耳元で囁かれたその言葉に、体が固まる。
「ほら、立てるか？」
「あ、うん。」
油断？狙われてる？
横山さんのいつもの笑顔。面白がっているのか、でもふとそこにある真剣な瞳の色に、言われた言葉を飲み込んだ。
「飲み直しや。マスター、すまんな、別のやつ作って。」
「もぉ、びしょびしょなんですけど。」
「そのうち乾くやろ。」
「ベタベタやってぇ。」
甘い酒の匂い。それに酔うことはなく、必死に最近のことを思い出す。
横山さんが忠告してくるとなると、すでに何かが動いてると考えていいやろ。でも、そんな異変、あったやろうか…
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作者名：orange | 作成日時：2023年12月29日 23時
