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昨日の使用人が、作った笑顔で入って来る。
「…いらん。」
「そうはいきません。あなたが食べないと私はすぐに首です。」
俺と口をきく奴はこれまで一人もいなかった。それはボスの命令やと思っていたけど。
「お前…」
「はい？」
誰やと聞いたところで答えるわけがない。ボスを騙した？そんなことあるか？
「そこに置いとけ。」
「一人では大変でしょう。お手伝いしますよ。」
「それ以上近づくな。そこに置け。」
「…わかりました。そんなに睨まなくても出ていきます。失礼しました。」
動きに怪しいところはない。食事を確認しないと…
「ｳﾜｯ…」
ベッドから立ち上がるのは何日ぶりか。足は弱って自分の体重も支えることが出来ない。
ボスは仕事。つきっきりだった分、少し食事が出来るようになったのを見て仕事に追われているのだろう。自分で何とかするしか…
でもとても食事の置いてあるところまでは行けなかった。何とかベッドによじ登ったらそれでもう限界が来た。
「丸山さん！侵入者です！」
耳もとで囁くような声に目を開ける。目の前には楽しそうな笑顔のあの使用人。
「ふふ。侵入しました！」
「…」
状況がよめないでいると、後頭部にあてられる銃口。一瞬で体が強張る。
「マル。」
「…大倉？」
思いもよらない人物。
「誘拐するわ。」
「俺を？」
「そう。」
次の瞬間体が持ち上がり、タンカになった食事台に乗せられる。
「何を…」
「はい、ちょっと黙っててな。」
猿ぐつわをはめられ、シーツを被せられる。
「よし、行くで。」
あまりにも用意周到な様子に驚く。
「あ〜、極秘任務や。気にすんな。」
えらく慣れた対応。屋敷の連中もすっかり丸め込まれている。
「ん？おい！」
ようやく屋敷の者が怪しそうに声をかけた。
「姫、少し揺れますよ。」
姫という呼び方が俺のことだと気づいたのは、本当にガタガタと揺れだしたから。
「お前ら！おい！あいつらを追え！」
「大倉！」
「ん。」
いくつかの銃声。音の行く先から、確実に相手に撃ち込まれたことがわかる。やっぱりこいつ、並の腕じゃなかった。
「大倉、加勢いる？」
被せられていた布が少し捲られると、そこには横山さんの姿。
「お、マル、死にそうな顔してるな。」
「横山くん、はよして。」
「マルのおらん敵の組織なんて余裕やろ。」
「何言うてるん。ボス付きの2人が動き出したらヤバいで。」
「…そやな。」
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作者名：orange | 作成日時：2023年12月29日 23時
