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橙サイド
自宅のベッドに倒れ込む。おかしい。体が思うように動かない。手の感覚が鈍っているのか、狙いの数ミリ違う所に弾がとぶ。
「はぁ…なんやろ…虫?」
目の前にいるのは蝶か…こんな所に迷い込んで…
「はよ逃げな、出られへんくなるぞ…」
しばらく眠っていたのか、小さな窓からこぼれる光に目を覚ます。
スマホには任務の連絡。現場へ行かないと…
立ち上がり玄関のドアを開ける。マンションから出て太陽の光を全身に浴びた瞬間、世界がグルっと回転した。
目覚めたのはベッドの上。病院…?
「マルちゃん!」
声の方に目をやると、いつだったか一晩過ごした女の姿。
「マルちゃん、大丈夫?」
声が出ない。じっと目を見て意識が戻ったことを伝える。
「先生呼ぶね?」
しばらくして、ツカツカとやってくる靴の音。視線を上げると医師が俺の顔をのぞき込んでいた。
「ご自宅のマンションを出られて倒れている所を、この御婦人が助けてくれましたよ。」
ゆっくりと頭を動かして、女に謝意を伝える。
「たまたま通りかかったのよ。騒ぎの真ん中にマルちゃんが倒れてるからびっくりして。」
心配そうに見つめてくれるけど、息が詰まって話せない。
「無理しないで。」
「知り合いの方が居てくださってよかったですね。少し患者さんと2人で話したいのですが。」
「じゃあ、また明日来るわね。ちゃんと休んで、元気になって。」
握ってくれる手を握り返すと笑顔で立ち上がる。医者に挨拶までしてくれて、その優しさに心が温まった。
笑顔の医師が硬い表情をして切り出した。
「違法な薬を使用していますね。」
薬……そうか…
「危険な数値が出ています。身に覚えはありますか?」
ゆっくりと頷く。
「警察と連携し、専門の病院に移ってもらわなくてはなりません。先程の御婦人には、身内の方が引き取って病院を移ったと伝えますね。」
そうして、俺は救急車で次の病院に運ばれるはずだった。でも、再び目を開けると、そこは忌まわしいあのベッドの上。
「マル…?起きたか?マル?」
目だけを動かす。気を張っていたから動けていたのかもしれない。病院に運ばれてから、全く体が動かなかった。
「ここで治療しよう。私がすべて面倒を見る。忠義のことはもうええ。お前がおってくれたらそれで。」
心底恨んでいるはずのボスの言葉。自分の思い通りに人を動かす悪人。でも、俺にもこんなに心配してくれる人がいるということに、どこか安心している自分がいた。
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作者名:orange | 作成日時:2023年12月29日 23時