18 橙 ページ18
橙サイド
体が震えている。寒い。怖い。暗闇。いつまでも俺はそこに囚われている。
ふと、大きなぬくもりが体を包んだ。感じたことのないぬくもり。
いや、母さんか。小さい時、怖くて眠れないときはこうやって抱きしめてくれた。母さん…あかん…そんな事したら捕まって…
「ハッ!…え?」
「起きた?」
「なっ…」
すっぽりと包まれた体。人のぬくもり。
「もう平気か?」
頭の上から響く声に顔をあげる。
「…大倉…」
次の瞬間跳ね起きた。何が起きた?なんで抱き合って…
「よかった。どこまで覚えてる?」
「どこまで…?」
ふとあたりを見渡す。
「ここは…」
「わからんけど、随分高いところから転がり落ちてきた。」
必死で記憶をたどる。大倉を追い詰め…そうや横山さんが俺を誘うようなこと…そして味方も敵もやってきて…
「お前、麻酔銃を撃たれたみたいやな。」
「麻酔銃?俺、ずっと眠って…」
でもなんで大倉が俺を…
「いや眠ってたわけでは…まぁ…覚えてないならええか。」
「え?」
しばらく考える。夢を見てた。苦しくて、でもそのうち心地よさに包まれた夢。
「まさか…」
「あ〜、俺は気にしてない。いや、それも変か。まぁ、事故や。いや、緊急事態というか。」
「…つまり?」
「へ?つまりまぁ…あんまり苦しそうやからその…そういうことやな。」
「…」
「一応、服とかちゃんとしたつもり。動けそうか?」
いやに馴れ馴れしい大倉に内心戸惑う。
「…俺はお前の敵や。」
「そうやけど…。逃げ道もわからんし。」
所在なさげに呟く大倉。
俺…こいつに抱かれたんか…。
何も覚えていない。でも…夢の中で心地よかったあの感覚は…。思わず片腕で自分の体を抱きしめる。
嫌で仕方のない行為のはず。それやのに…俺…
「マル?」
顔を上げると、心配そうな大倉が俺の様子を伺っている。
そのいたわるような瞳を真正面に受けて、知らぬ間に鼓動が早まった。
「大丈夫か?」
問いかけながら近づいてくる大倉にさらに鼓動が高鳴る。心配してくれる仕草。胸に広がるこの温もりはなに…?
「大倉!マル!」
「丸山さん。」
混乱する感情は、押し寄せる足音にかき消された。
敵味方の到着は同時。逃げないと。目的の失敗はボスの怒りを買うやろう。でも…
「マル!」
腕をつかんだ大倉を振りほどいて走り出す。逃げるための銃撃戦。しばらく走って山道を下り、止めてあった車に乗り込んだ。俺には戻るしかない…
21人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:orange | 作成日時:2023年12月29日 23時