monogram (ページ11)

今日:5 hit、昨日:2 hit、合計:6,330 hit

11　橙・緑ページ11

自然と涙が溢れた。俺は一生ここから出られない。

「お〜よしよし。泣き顔もめちゃくちゃええわ。母さんには長生きしてもらおう。その分、お前の鎖になってもらわんとな。」

半年後、再会した母さんは、ショックからか痛めつけられたことを覚えていなかった。俺のことを物凄く眩しい表情で見つめ、大変な仕事を任されて頑張っていると信じている。

「隆平！おかえり、疲れてないか？」

明るい母の笑顔は幾分か心を軽くする。でも、俺はいつもこの人に本当の事を言えずに大人になり、未だにそれが続いている。そう思うと心底心を開くことは出来なかった。

「母親のこと、大事やろ？」

それはそうや。いい加減な親父の借金に苦労させられ、必死に俺を育てて。親孝行したかった。それやのに、俺のせいであんなに殴られて…

「ｸﾞｯ…」

「はぁ…。マル…かわいいで…」

身体の震えと荒い息。無理やり重なる唇に労るような手の仕草。

もうどうでもええ。世話になった母さん。見捨てた父親のようにはなりたくない。ただそれだけ。

◇

緑サイド

「大倉さーん、飯食いやぁ。」

目を開けると、そこには満面の笑顔。

「わ！」

驚いて顔を上げる。

「ははっ！驚いた？しっかしええ顔してんなぁ。なぁ！俺の絵のモデルになってぇや。」

「モデル？」

「おいおい。お前、大倉さんのこと絵に書いたら問題になるやろ。」

「そっかぁ。それもそうやな。」

本当に可笑しそうに笑いながら話を続けるヤスさん。

「とりあえず下においで。あ、服スーツだけ？俺のじゃ小さいしなぁ。よし、作るわ！」

「え？」

「とりあえず先に飯！」

「うるさくて悪いな。行こか。」

時間はすでに翌朝になっていた。何も食べる気はしなかったけど、一口食べると止まらない。

「豪快なんやなぁ。飯好き？」

「はい。料理、全部めっちゃうまいです。」

手料理なんていつぶりやろう。身体だけじゃなく、心まであたたまるように感じる。

食後に出されたコーヒー。亮と呼ばれた人が入れてくれたんやけど…

「おい、亮、そんなに大倉さんのこと見てたら飲みにくいやろ？」

子犬のように見てくるその視線に何か答えないとと焦る。

「あの、美味しいです。」

「…ふん。あっそ。」

「え…」

「亮！すまんな、人見知りが酷くて。でも、あんたの反応待っててん。可愛いやつやろ？」

こそっと耳打ちする村上さんのその姿も可愛くて、思わず笑ってしまう。