2 緑 ページ2
緑サイド
「お疲れ様です。」
「ん。任務にあった現物を持ってきた。」
「お待ち下さい。」
地下にある事務所。入口は何重にもロックがあり、一般人の目からは厳重に隠されている。
依頼は暗号化されたメールでのやり取り。現物がデータ化できない時はこうやって事務所まで届ける。
ドアをノックする音でさっと立ち上がり、そこに姿を現したボスにあいさつをする。
隙のない凛とした姿。誰よりも強い情熱を持って、ボスは国のために働いている。
「間違いない。ご苦労だったな、大倉。」
「いえ。」
人払いをさせたボス。途端に柔和な表情が浮かんだ。
「忠義。昔みたいに『抱っこ〜』言うて、甘えてくれてええんやで?」
二人きりになるといつものように下の名前で呼ばれる。孤児の俺を拾って育ててくれたこの人には感謝以外何もない。
愛国心は育たんかったけど、愛情豊かに育ててくれたこの人に恩返しをしたい気持ちで俺は生きている。
「はは。もう無理でしょ?」
「そんなことない。ほら。」
「いやいや。何してんねん。」
笑顔で両手を広げるボスをかわすと、心配そうな目が俺をうかがう。この仕事につくことには大反対をされ、何なら今も反対されている。
「俺はもう、心配で心配でしゃあないんやぞ?」
「気持ちは有り難いんですけど…」
「なんや?」
真っ直ぐに問い返すボス。そんな表情に、マルのことを聞く勇気がなくなった。
「いえ。わかってます。危なくなったら引き返しますから。」
「はぁ…。こんなことしてたら結婚も程遠いな。孫の顔が見たいのに。」
「ボスも独身でしょ?」
「俺は、そりゃあもう!なぁ?」
「何が『なぁ?』や。父親のそんな話、聞きたないわ。」
「はは。とりあえずは無事で何より。また頼む。」
「はい。」
たまにしか会えなくなった今でも、会うと心底安心する自分がいる。それはきっと、こんな世界でもボスが父親であろうとしてくれた努力の成果なのだろう。
「ちょっと資料確認してから出るわ。」
事務所の職員にそう伝え、膨大なデータの扱える部屋でこれからの任務の動きを練る。
「よぉ。」
「久しぶりやな。どうや?」
スパイ仲間は多いが、知らない間にいなくなる者も多く、その行き先はわからない。まぁ、ほとんどが殉職やけど。交わす言葉もあいさつ程度。任務で一緒にならない限り、深く関わることはない。
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作者名:orange | 作成日時:2023年12月29日 23時