1 緑・橙 ページ1
緑サイド
「お前さ…」
「なに?」
「…ええわ。」
次の瞬間に鳴り響く銃声。しらけた様子で目の前のターゲットが倒れるのを見ている。
「あと頼むわ。」
倒れた相手の横を平然と通り過ぎる背中。しばらくするとバイクの走り出す音が聞こえる。
「はぁ。」
今日は俺の仕事のはず。いつの間に耳に入ったのか。別の依頼がないときは、こうやっていつもあいつが手柄を横取りする。
バイクが向かうのは何処なのか。任務後は適当に女遊びするという噂は聞いたことあるけど。ま、そんなことどうでもええ。
「大倉さん!」
「おっそ!お前ら遅いねん!」
「すんません。あとはやっときますから。」
「これ、マルやし。」
「え…」
続く言葉を待たずに自分もバイクに向かう。タバコに火をつけ、夜空を見上げた。
ボスの指図か何なのか。過保護もいい加減にしてほしいわ。
無感情なマルの背中を何となく思い出しながら、やり場のない気持ちにため息をつく。
考えてもしょうがない。俺は言われたことをするだけ。
バイクに跨り、重たい気持ちを振り払うように一気にスピードをあげ、街に向かって走り出した。
◇
橙サイド
「なぁ、ええやん。」
「もぉ、マルちゃんしつこいし。」
「ええやんかぁ。なぁ、行こ?」
「え〜…だってマルちゃん、私だけちゃうやろ?」
「そんなことない。今はお前だけやで?」
お前という言葉に途端に顔を赤くする。
「な。ほら手ぇ貸して?ここ。」
「なに?」
「めっちゃドキドキしてんねん。感じる?」
「…」
「な、ええやろ?」
「…もぉ。」
柔らかい身体に手をすべらせる。波打つ曲線。何も考えなくていい時間が出来るだけ長く続くように集中する。でも、それはいつも成功しない。
「マルちゃん、また来て?」
「ん。約束。」
柔らかく微笑む笑顔。でももう会うことなんてないやろ。冷え切った頭は女のことなんてすぐに忘れ、山のような依頼のメールを確認していく。
「こっから近いのは…ん?」
ボスからの電話。いつもの声が俺の所在を確認する。
「じゃあ、事務所来るのは明後日か。」
「…うまく任務が完了すれば。」
「大丈夫やろ。ほな待っとくわ。」
あっさりと切れた回線。しばらくその場に立ち止まる。何とはなしに見上げた空は、俺の気持ちとはかけ離れた清々しい色をしていた。
いつものこと。別にどうでもええ…
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作者名:orange | 作成日時:2023年12月29日 23時