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「大倉、まだ教室終わってないから奥におって。丸山さん、今日はもう作品できたし、よかったら大倉に付き合ったってください。このあと予定ありますか?」
そう言われて断る理由もない。先生に別の部屋に通されて、二人で向かい合う。…なんか緊張してきた。
「憧れの一輪挿しの作者さんに会えるなんて、感激です。」
「はははっ!そんな言い方されたら緊張します。」
「あの作品がうちに来てくれてから、毎日が楽しくなりました。」
部屋の一輪挿しを思い出しながらそう言うと、大倉さんは驚いたようにこちらを見た。
「そんな風に言ってもらえるなんて、幸せです。」
優しい笑顔。吸い込まれそうな雰囲気が作品と重なる。
「あの。大事にします。」
「ありがとう。よろしくお願いします。」
好感のもてる受け答え。次第に打ち解けて、先生が来る頃には大声で笑い合っていた。
「丸山さん、めっちゃおもろい。」
「大倉さんの笑いのツボが浅すぎるから、調子に乗ってしまいます。」
安田先生と大倉さんは高校まで同じ学校の同級生。陶芸家を目指した先生と、経営に興味を持った大倉さんはその後別々の道に進んだらしい。
「でも、大倉ってなんかセンスがあって…」
陶芸をさせてみたら、次々といい作品が出来る。勿体ないから色々と出品させていたら、毎回全て購入されるようになった。
「ヤスには到底及びませんけどね。」
「僕、先生の作品、見せてほしいです。大倉さんの作品ももっと見たいです。」
身を乗り出してお願いすると、二人が同時に下を向く。
「大倉、俺が先や。」
「先か後かでいうと、俺が先やろ。」
何を言い合っているのかわからないけど、二人でしばらくじっと見合ったあと、先生が不意にこちらを向いた。
「丸山さん、俺、また個展やるし、実物を観に来て?」
「はい!是非!!」
「よし!頑張る!!」
気合いを入れる先生のポーズ。それを横目で見ながら、大倉さんが誘ってくれる。
「丸山さん、よかったら今度一緒に作りませんか?俺、来週ならもう少し早く来れそうやし。」
「え、是非!!」
「大倉。丸山さんは俺の生徒です。」
「来週から個展準備やろ?どうせ教室は弟子に任せるんやから、俺が見たってええやん。」
「そりゃ助かるけど…」
少しの沈黙。先生がそっと大倉さんに尋ねる。
「ほんまに言うてんのか?お前、もうそういうのは…」
「……」
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作者名:orange | 作成日時:2022年12月27日 14時