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「ねぇねぇ！見た？あの人。ちょーきれいやん。モデル？」
「あ〜大倉課長の？」
「そうそう！取引先から父親と来たって。」
「え、なに、課長の婚約者がわざわざ会社にあいさつ？」
「彼女も父親の会社の重役らしいから、一応仕事ではあるんじゃない？」
もう聞いてられない。どうでもいい情報を無理やり聞かされたくない。足早にその場から去る。
「婚約者…」
大倉さん、なんで僕には教えてくれへんねんやろ。友だちなんじゃないの？そんなん、１番に教えてくれてもええのに。なんでこんな周りの人から聞かなあかんねん。
そうか。僕、友人として信頼されてないと思って悶々としてたんか。
「村上さんは、大倉さんが結婚する話、聞いてる？」
夕方、帰りが一緒になった村上さんに聞いてみる。
「大倉さんが？」
「うん。」
「…」
「あ、知らん？」
「いや。聞いてるで。」
「……取引先の人？」
「そやな。」
「…それって…本人から聞いた？」
「…」
「噂？」
「いや。本人がそれらしいこと言うとった。」
そこから、村上さんが何を言っていたのか、どうやって帰ったのか、ほとんど覚えていない。僕だけ…？章ちゃんも知ってる？
「あ…」
大倉さんからもらったスノードームが玄関で待ってくれている。嫌やな…。なんか、虚しい…。僕って何のために生きてるんやろ。
「あかん。泣かへん。」
泣く意味がないやん。僕はやっぱり信頼されてないんや。なんで言ってくれへんのやろ。そんなこと報告するまでもない存在なんか…。
もういいやん。僕は、仕事で楽しくやっていくんやから。そう決めたんやから。大倉さんとは面白おかしく話が出来たらそれでいいやん。
◇
先生のアトリエへ向かう車の中。僕は必死で平静を装った。ちゃんと出来てるはず。でも…大倉さんの話す声が心地よくて、そばにいるのが楽しくて…
「丸山さん？しんどい？」
「え？」
おでこに大倉さんの柔らかな手。一瞬ドキッとして、でも気持ちよくて動けない。
「熱はないか。…二日酔い？」
「なんで！？」
「ははは！だってなんかちょっと視線が定まってないから。」
「…そんなことないです。」
「それとも何か悩み事？」
「悩んでなんかないです。」
「そうかな…？」
「そうです。」
「…ならいいですけど。」
少し暗くなる大倉さんの声。
「…すみません。心配かけてしまいましたか？」
うかがうように聞くと、驚いたように目を開く。そして物凄く優しい瞳が僕を見つめた。
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作者名：orange | 作成日時：2022年12月27日 14時
