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「痛いところない?病院行こうか?」
小さく首をふる。あちこち痛い気もするけど、とにかく早く帰りたかった。
「警察も行きたくない…です…」
「丸山さん。それは出来ません。これから心配で落ち着いて陶芸をしてられなくなりますよ。」
「でも…」
「俺もいますから。」
そう言われて渋々付いて行く。警察なんて、なんか怖い。でも、大倉さんが隣にずっといてくれたから、何とか説明することができた。
「実は、見知らぬ男性に声をかけられるという報告はいくつかあって。今回のように襲われたのは初めてですけどね。被害届、出されますか。」
「出します。あ、丸山さん、出しますよね?」
大倉さんが言うなら出すべきだろう。僕が頷くのを見て、書類が作成されていく。
「巡回をさらに強化するようにします。何か進展しましたら連絡させてもらいますね。」
帰り道、家まで送るという大倉さんに甘える。
「丸山さん。俺、泊まりましょうか?」
「え?」
「一人で大丈夫?」
「あの…それは大丈夫です。」
「そう?」
「はい。」
「ショックでしたね。丸山さんにこんなことするなんて、あの時ほんまに一発殴ってやればよかった。」
「それは…」
「でも、正直俺もびびって大声しか出せませんでした。ほら、実はまだ手が震えてたりする。」
パッと目の前に現れた柔らかそうな手。それが小刻みに震えてる。そりゃ大倉さんだって怖かったよな。それやのに、僕のためにここまでしてくれて…
「大倉さん。」
思わずその手を握る。
「わ、ちょ…」
「ほんとにありがとうございました。僕、自分のことばっかり…。助けてくれてほんまにありがとうございました。」
勢いよく伝えた僕に、相変わらず優しい瞳で答えてくれる。
「そんなん、丸山さんが一番怖い思いをしたんやから。」
ぎゅっと握り返される手。その力強さにとても安心する。
「丸山さん、連絡先教えて。なんか心配やし、明日また連絡するから。」
「でもこれ以上迷惑かけられへん…」
「あかん。ほら、スマホ出して。」
テキパキと連絡先を交換してくれる。
「怖くなったら遠慮せずに連絡して。」
真剣な大倉さんに自然と頷く。
「じゃあ、また明日。」
「あ、あの、タクシー代…」
「そんなん大丈夫。ほら、マンション入って。」
そっと背中を押される。振り返ると満面の笑顔がそこにある。
「おやすみ、丸山さん。」
「おやすみなさい。」
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作者名:orange | 作成日時:2022年12月27日 14時