11 ページ11
大倉さんが、ほんの一瞬、さっきの明るさが嘘のように深い眼差しを地面に落とす。何かあったのかと疑問に思ったけど、先生がすぐに笑顔をこちらに向けてくれる。
「丸山さん。来週から俺は個展に向けて取り組むので、講師で来るこいつに色々聞いてください。」
大倉さんが顔を上げた。さっきの暗い表情はそこにはなく、笑顔でよろしくと言ってくれる大倉さん。
「先生の個展も、来週の教室も、楽しみにしています。」
二人の笑顔に自然と笑みがこぼれる。新たな出会いにまた胸が踊っていた。
◇
「丸山さん、あの、わたし…」
営業先。会社を出ると、顔も名前も知らない女の人が駆け寄ってきた。
「はい？」
「あの！よ、よかったらこれ、貰ってください！」
渡されたのはブランドの名が入った紙袋。
「え？こんな高価なもの困ります。」
「じゃ、じゃあ、これ！」
強引に渡されたのは、小さな封筒。そのまま慌てて戻っていく後ろ姿を見ながら、憂鬱な気持ちが心を覆う。
帰りに開けた封筒には名前と連絡先。
古風なやり方やな…。なんてぼーっと考えながら、あの後彼女が社内でどうなったのか想像してみる。同僚に報告して、みんなで騒いで、さぞかし楽しいのだろうな。
僕というより、こういう恋愛に憧れているんやろう。しかし、こんな簡単に連絡先なんて渡したら危ない。
「どうしようかな。」
女の人を愛せないと気づいたのはいつだったか。中学に入った頃には恋愛対象はすでに男だった。クラブの先輩。子どもから大人へと体が変化するその時に、自分よりも体格の良い先輩が魅力的で、すごく憧れてた。
高校ではひたすらバレへんように過ごし、大学で地元の奴がいない都会に来て今になる。
大学時代はほんまに酷かった。好きになっては捨てられ、それでもめげずに男の人に縋った。卒業のときに付き合っていた人に営業に向いていると言われ、今の会社に就職。
その人にもめちゃくちゃにされて捨てられ、生きる意味がわからなくなった。でも、小さい頃からお調子者。自分の言葉で人が笑顔になるのがうれしい。営業という職を得て、とりあえず生き延びてきた。
「丸山さん。ここ、もっと優しく。」
「はい…」
大倉さんは安田先生と違って、言葉ではなく一緒に創りながら手で教えてくれる。土の捏ね方、整形の仕方。重なる手が見事な形を作っていく。
「すごい…」
「ちょっとコツが掴めました？」
「はい、なんとなく。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 30人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：orange | 作成日時：2022年12月27日 14時
