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「兄上、あの…」

「どうした?」

国に戻り、しばらくしても何も変わらない日常。あれは夢だったのだろうか。あの日以来、果てしなく募る、このやり場のない気持ちをどうしていいかわからない。

「いえ、何もありません。」

「そうか?それにしても、お前が悪夢から解放され、少しずつ政治に参加してくれるようになってから、ますますこの国は栄えてきたように思うよ。」

「そんな短期間で変わるものではありませんよ…」

「兄弟のモチベーションが違うのだろう。お前が明るいとみんなが明るくなる。」

「明るくなんか…」

「マル?」

「ヒナ様…」

「ふふ。あなた、マルの相談事、聞いてあげなさいな。」

「ん?先ほどは何もないと。」

「言いにくいのですよ。マルはわがままなんて言ったことがないでしょう?自分の事をどのようにお願いしたらいいのか分からないのです。」

「そうなのか、マル?」

「あの…はい。」

「すごいな、ヒナ。」

「うちにヒナ様が来てくださったこと、本当に感謝します。」

「ふふふ。それで?あなたの想い人はどなた?」

「え、想い人?」

「ヒ、ヒナ様…あの…」

「まぁ、珍しい!あの冷静なマルがこのように…」

「からかいなさいますな、ヒナ様、ご容赦を。」

「あら、ごめんなさいね。」

「マル!お前、いつの間に?」

「それはまた追々…その、実は自分も下のお名前しかわからないのです。」

「一目惚れか?」

「あ〜いや、ん〜…」

「なんとおっしゃるの?」

「忠義様…です。」

「忠義様…まぁ、男性の方?王子かしら?あなたご存知?」

「ん〜…どうだろうな、隣国の王子にそのような名は聞いたことがないな。」

「…そうですか。」

「マル、落ち込まないで。あなた、探してみましょう。」

「もちろん。すぐに動くから、待っていなさい。」

しかし、どの国にも忠義という名の王子はいなかった。忠義様と再会できた国にも聞いてもらったが、忠義という名はなく、姫君たちもたまにふらっと現れるだけで、詳しくは知らないらしい。

「はぁ〜。」

騙されたんかな。

「ウッ…」

あほみたいや。浮かれて、その気になって…。俺が何かを楽しみにしたらあかんねん。そうやん、父様も母様も、俺が浮かれてたから、だからあんな…

「ウウッ…」

泣いて泣いて…みんなが心配して部屋に来てくれるけど、傷ついた心は立ち直らない。指輪を箱に閉じ込めたせいか、結局悪夢はぶり返し、俺はまた、ただのお荷物になった。

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作者名:orange | 作成日時:2022年1月30日 19時

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