90 ページ47
「父さん…」
「忠義、そう思わんか？」
「うん。何が起こってるのかは全然わからんけど、もしりゅうの国で不幸になった人がいたとしたら、りゅうは一生後悔するんやと思う。」
「…」
「本当に内々で起こったことかと思います。りゅう様の存在についても噂があるだけで、他国が必死に探すなどの動きは見られません。覆面の男達はよほど内部の人間だったと思われます。」
「そうか。…どうする？りゅう。」
「…どうするも何も…そんなこと…」
「りゅう、とりあえず今日は帰るか？じっくり考えよう。」
「考えるって何を？俺、そんな、確かに皇子だなぁというくらいの記憶で、何をすれば…」
「りゅう。しっかり考えろ。お前の国なんやろ？」
「それは…確かにそうなのですが…あの…どうしたらいいのか…」
「りゅう…」
「まぁ、そりゃそうやな。急に皇子や、国の危機や言われても、そんな壮大なこと、実感もないのに動かれへんわ。」
「…申し訳ありません。」
「謝ることなんかない。…そやな…ただし無視も出来ひんから、準備だけは整えておこう。」
「陛下…そんな…私なんかのために…」
「うちの大事な家族のことや。何も気を使うことはない。」
「…思い出せるのでしょうか…こんなによくしてくださっているのに…私は…」
「お前のタイミングがあるんや。それこそ神の国の御子なんやったら、いい時期に動けるようになってんねやろ。」
「陛下…。ありがとうございます。」
「ん。とりあえずはゆっくり休め。」
「はい。」
◇
「りゅう、おいで。」
玄関を入ったら忠義がそっと抱きしめてくれる。
「忠義…」
「りゅう、不安やな。」
「…うん。」
「ちゃんとおるから。俺がちゃんといてる。」
「うん。」
「こっち向いて。」
顔をあげると忠義の凛々しい顔。
「りゅうではなく、隆平なんやな。」
「ん…たぶん。」
「ちゃんと俺も受け止めないと。」
「え？」
「丸山隆平さん。」
名前を呼ばれた。実感のない、飾りのような名前。でも、忠義に呼ばれた瞬間、全身が固まる。動かれへん。
「愛しています。どんなことがあっても。」
近づいてくる忠義をただ見ているしかできない。心臓がバクバクと恐ろしい音をたてている。咄嗟に忠義の腕をぎゅっと掴んだ。そしてそっと口付けられた瞬間、頭の中に洪水のようにいろんな場面が雪崩れ込んできた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 38人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：orange | 作成日時：2021年7月6日 7時
