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住職さんは穏やかな表情で2人のことを話してくださった。
「いつも笑顔でね。見ているこちらが照れるくらい、2人で楽しそうに見つめあってお話をされていたのが印象的です。」
「ふふっ。なんか、周りからしたらちょっと痛い夫婦やな。」
「そんなことないよ!めっちゃいいやんか、いつまでも仲がいいなんて!」
「うん…。うん、ほんまにそうやな。理想の夫婦や。」
「そうですよ。そしてこれがあなた宛てです。お母さんに渡そうとしましたが、あなたがここに来れるようになったら渡してもらえないかと頼まれました。お持ち帰りください。」
震える手で木箱にふれる忠義。そっと蓋を開けるといくつか手紙と思われるものと、鍵が入っていた。
「あの…帰ってから…」
「もちろん。私は預かっただけですから。ゆっくりお父さんと会話してあげてください。」
「はい。ありがとうございます。」
住職さんは、お父さんとお母さんの若い頃の話や忠義のお宮参りのことも話してくれた。
「お二人ともここらでは評判の美男美女やったからねぇ。」
「お父さんの写真、素敵でした!」
「そうでしょう?子どものあなたとおる姿なんかほんまに絵になっていました。」
明るく話してくださる住職さんに癒される。しばらく談笑して、最後にお母さんの遺骨をこちらに移すための手順を教えてもらい、お墓を後にした。
ホテルに着くと、緊張した様子で木箱と向き合う忠義。一人の方がいいかなと思って、ホテルのロビーに行こうとしたら引き止められる。
「隆平。一緒におって。」
「うん。」
『忠義へ』と書かれた封筒。忠義は壊れ物を扱うようにゆっくりと開き、文字を目で追っていく。読み終わってから、僕の方に手紙を渡してくれた。
「読んでくれる?」
「いいの?」
「うん。読んでほしい。」
そこにはフラフラな文字でお父さんの気持ちが書かれていた。
「これ、お母さんへのラブレターみたい。」
「ほんまに…息子宛って分かってんのかな。」
「ふふ。あ、忠義のこと出てきた。」
忠義が将来、すごいデザイナーになるだろうと信じてるって。天才やと思ってるって。なんて微笑ましいんやろう。重荷になったらごめんやけどって、お茶目な一文もある。
「父さん…生きてたら、ほんまに親バカやったやろうな。母さんの尻にもしかれて、デレデレしてそうや。」
「ふふっ。ほんまやな。」
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作者名:orange | 作成日時:2021年3月14日 20時