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「おかしくなってきたのは、会社のことにけりがついてからなんちゃうかな。」
「え…?」
「何とかみんな無事に食いっぱぐれのないように出来たって、ホッとしてはったのに…」
お父さんは、夜中に暴力事件を起こして警察にお世話になったり、街中で関係ない人に絡んだりするようになった。
「私も信じられへんかった。見てられんくて、何回かうちに連れてきてごはん食べさせて。」
お父さんの様子は普通ではなかったらしい。何か薬でもしているんじゃないかと弥生さんは思ったくらい常軌を逸した行動をしてたって…
「父さん…」
「由貴ちゃんにはありのままを伝えてた。泣きながら話を聞いて、息子のことを守らなあかんって必死やった。」
忠義の表情がくもる。背中に手をあてると少し震えていた。ゆっくり撫でて落ち着かせる。
「お父さんは、お母さんと忠義にも…」
「うん…。由貴ちゃん、ほんまにショックを受けて…脱け殻みたいな目をしてた…」
「ウウッ…」
「忠義くんがいてなかったら、生きていかれへんかったんちゃうかな。そりゃそうや…ほんまに拓哉さんのこと愛してたから。それやのに…」
言葉を詰まらせるお母さん。でも、決心したようにもう一度話しはじめてくれる。
「ある日、店の前に拓哉さんが来てた。」
弥生さんは、お父さんが茫然と立ち尽くしていたから、慌ててお店に入れた。
「その日はとても落ち着いてて…。自分が家族と会社を守るために一人でしてきたこと、なんでこんなことになってしまったんかって、泣きながら話してくれた。」
「父さん…」
「ほんまに優しい人やった。自分一人が犠牲になってね。社長やからって、そんなに出来ひんと思う。」
忠義の瞳から涙が溢れる。お父さんは騙した人の悪どさに気づいて、誰も近付けたらあかんって思いはったらしい。
「でも何より、由貴ちゃんと忠義くんに手を挙げてしまったこと、めっちゃ後悔してた。」
「ウッ…」
「もう自分が自分じゃなくなってどうしようもないのに、2人を求めて体が勝手に行ってしまうんやって。」
「そんな…」
「愛が欲しくて、お金も欲しくて、よくわからんまま2人を傷つけてしまってるって。自分が一番大切にしたかったもんを傷つけてしまったって…号泣してた。」
「ウウッ…父さん…」
「私…。切なくて、あまりにもかわいそうで…思わず抱きしめてしまった。」
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作者名:orange | 作成日時:2021年3月14日 20時