パン ページ6
なのにこいつときたら、
「お前、能力者か！！」
と叫んでいる。全くもって参っていない。
それよりも、
人に指を指すな！
「あんた、何者なの！？いいから、海に落ちて！どっか行って！よっ！」
うぉぉぉ！！と、叫びながらタックルをかますも、意図も簡単に止められて、それどころか船底に押さえつけられてしまった。
やっぱり、戦うのは苦手だ。
「あ、あっぶねーなお前。自分も海に落ちる気かよ、死ぬぞ？」
全く余裕そうな様子で、むしろ私の心配をして、それがまた私の怒りを煽る。
「離しなさい！あんたやっぱり海賊ね！くっそ！！この！！」
どれだけもがいても力が入らない。びくともしない。それどころか間抜けな音が自分の腹部から聞こえてきてそんな自分自身に腹が立った。
絶対聞こえたであろうこの海賊は、「腹へってんのか！お前！」と笑い、何の戸惑いもなく私の拘束を解いてガサゴソと何やら自分の持ち物を漁り始めた。
「ん〜、...お、あった。はいよ！」
そう言って私に差し出してきた。
「...パン？」
「あぁ。食うもん無いんだろ？」
「...」
戸惑いながらも受け取り座り直す。相手の顔はまだよく見えない。
「困ったときはお互い様だからな！遠慮すんな！」
「...」
「...何だよ？」
「...」
「...はぁ。...毒なんか入っちゃいねーよ」
「...だって、さっきの今であんまりに急な展開だから」
「この海ではそう珍しいことでもねーだろ？兎に角食え！どーせ飢え死にするところだったろ？」
確かにそうだ。腹ペコで力もでなくて、今にもぶっ倒れそうだ。
「......うん...ありがと...」
「だから、困ったときはお互い様だぜ？女の海兵さん。」
「...いただきます」
久々に口にしたパンは、小麦粉一粒一粒がわかるのではないかというほど甘くて美味しかった。
彼が笑っているのがわかった。
変なの。さっきまで自分のことを殺そうとしてたヤツに飯をめぐってやって、それで笑ってるだなんて。やっぱり、毒いり？
それでも、そんなこと今はどうでもよくて、パンの旨味を噛み締めることにした。
「俺、自分の船に戻ってる途中だったんだよ。そしたら、こんな海の真ん中に小舟が浮いててよぉ、中見たら人が倒れてんだもな。しかも、女の海兵が1人でよ。」
なるほど。確かに自分がコイツの立場でも足を止めたかもしれない。グランドラインで小舟が浮いてるなんて希だし。
...暇だから少し位話してもいいかな。
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作者名：日比野 スズメ | 作成日時：2018年11月25日 17時
