小舟の上で ページ5
このまま、天国に行けるのか
と思いきやそうではなかった。
先ほどまでの投げやりな自分が嘘だったかのように、今は視覚以外の全神経を集中させて当たりの状況をうかがう。
なぜなら、恐ろしいことにこの小舟に私以外の何者かがいるからだ。
小舟が揺れた拍子に目が覚め、人の気配を感じてから数分。辺りはまだ暗いので夜らしい。今日は幸か不幸か、新月で明かりという明かりが何もないため目を開けていても周りの光景が全く見えないに等しい。
だがそれは相手も同じだ。数分こうしてなにもしてこない辺り、殺すつもりは無いらしい。
微かに感じる気配で人だとわかるだけで、男か女かもわからない。
ここは海の上。どうやってやって来たのだろう、何者なのだろうか。海軍ではないだろう、とすると、海賊だろうか、なぜ一人なのだろう。
考えれば考えるほど謎が深まり、得たいの知れない相手に体が震えるのをグッと我慢する。
こんなに落ち着いて思考を巡らせているが、元来私はビビりだ。先ほどから恐怖で目を開けていない。開けても何も見えないのだけど。
正直、もうすでにキャパオーバーである。
すると、相手も私のことが見えないため顔を近づけたのだろうか、グンと気配が近づいた。叫びそうになるのを歯を噛み締めて何とか我慢する。
どうしよう、このままじっとしていても状況は良くならないだろう...
「...死んでいるのか？」
！！
男の声だった。
このまま死んだふりをしていればやり過ごせるだろうか、でも相手がどんな輩かわからない以上、このまま無防備な状態でいるのは危険だ。
薄く目を開けてみれば、ぼんやりだがシルエットが見えた。やはり海軍では無さそうだ。
...腹をくくるしかない。
すうっと静かに大きく息を吸い込むと、
「うわぁぁぁぁぁ！！！！！」
「のわっ！？」
腹から思いっきり声を出して、腰にさしていた刀を勢いのまま横殴りの要領で振る。小舟から落とすつもりだった
が、パシッと腕を掴まれて阻止される。予想外の反応に少し呆気に取られたが、足をグッと曲げ、一気に伸ばして相手の腹を蹴り飛ばす。
入った！
しかし相手は器用にもバク転をして小舟の縁ギリギリに立ってみせた。
能力を使い刀を延ばしてもう一度相手の首目掛けて振るも、身をかがめて避けられる。何度切りつけてみるが、全く当たらないどころか掠りもしない。
こいつ、とてつもなく反射神経が良い！
私はといえば、腹もペコペコだったので肩で息をするほど疲れていた。
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作者名：日比野 スズメ | 作成日時：2018年11月25日 17時
