第97話 触ることができる ページ50
A視点
人間の姿から汽車の姿に、そして今はどちらでもない姿になった魘夢様が苦しそうに、倒れている炭治郎君に手を伸ばす。
その目には初めて見る憎悪の表情が刻み込まれていた。死んで幽霊みたくなってしまった私が、彼に触れる事はできない……。
それでも、炭治郎君を殺してほしくない気持ちと、苦しむ魘夢様を見ている辛さに蝕まれ、気付いたら空を切った魘夢様の手に触れようとしていた。
「……魘夢様っ」
「……A?」
驚いた事に、魘夢様が私の名前を呼んだ。それだけじゃない。彼の手に触れる事ができている。下壱と刻まれた瞳がこちらを向いた。
聞こえないはずなのに。触れないはずなのに。見えないはずなのに。どうして?
だけど、その答えがわかるより先に魘夢様の体も……、そして幽霊みたくなった私の体もほろほろと崩れていった。まるで燃やされた紙が灰になっていくように。
気付いたら、真っ暗な空間に倒れていた。
ふと泣き声のようなものが聞こえて、隣を見ると魘夢様が……。髪の赤や緑、頬の模様が消えた魘夢様がまるで魘されているような呻き声をあげていた。
「……魘夢様」
何が起こっているのかはわからない。だけど、魘夢様にとってとても嫌な事が起こっている事は理解できた。
肩に触れ揺さ振る。久しぶりに触れる彼はいつもより温かかった。
「……A」
魘夢様が静かに目を覚ます。その瞳から初めて見る涙が零れ落ちた。胸が痛む。
「……嫌な夢を見てたんですか?」
言いながら、ハンカチを取り出し彼がよくしてくれたように魘夢様の涙をそっと吸わせる。
「……そう。悪夢だった」
起き上がった彼の背中を静かにさする。前は……今もだけど、人に自分から触れるのは苦手だった。
汚物だと思われてるんじゃないかと怖かったから。だけど、魘夢様だけは別だった。
私をただの食い物でしかないと言った彼は無条件で信頼できた。今だってその気持ちに変わりはない。
「……ねえ、A。俺の話を聴いてくれる?」
ぐったりとしている魘夢様が若干上目遣いで私を見やる。考えるより先に首を縦に振る。
「勿論ですよ、聴かせてください。魘夢様のお話」
魘夢様のお話はいつも誰かの不幸な話だった。つまり、魘夢様御自身の話ではなく別の人の話。聴いていると心が痛んだ。
だけど今回は違った。今回は魘夢様の過去……人間だった頃のお話だった。
鬼としての彼が命を失って、それと同時に人間だった頃の記憶を取り戻したらしい。
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ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 黒脛巾さん» 実はきゅんきゅんをイメージして書いていたので、そのように仰って頂けてとても嬉しいです!ありがとうございます! (2021年1月24日 16時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
黒脛巾(プロフ) - めっちゃきゅんきゅんします・・・!更新応援しております! (2021年1月24日 1時) (レス) id: d7d533f63c (このIDを非表示/違反報告)
ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 包帯無駄遣い装置さん» 本当は夢主視点にしようとしたのですが、怪我しているのに冷静に実況してたらおかしいなって思いまして笑。嬉しいコメントありがとうございました! (2021年1月14日 19時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
包帯無駄遣い装置(プロフ) - ぶるうべりぃ♪さん» いや魘夢視点なんて素敵すぎじゃないですか (2021年1月14日 19時) (レス) id: 206c89cdd5 (このIDを非表示/違反報告)
ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 包帯無駄遣い装置さん» 包帯無駄遣い装置さん!ありがとうございます!魘夢様が素敵と仰って頂けて、書いている私としてはもう本当に幸せです!応援ありがとうございます! (2021年1月14日 18時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
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