第87話 噛み付く ページ40
「魘夢様は私にとって、かけがえのない方です……」
一度言葉を切り、頭の中を整理する。最期になるのだから言い忘れは無しにしたい。
「なかなか、食べていただけなかった時は不安もありましたけど、この数ヶ月間、一生分の幸せをいただきました。ありがとうございました」
魘夢様といると、すごく生きていて楽しかった。自分が生きているのだと実感できた。この感謝の気持ちは言葉だけでは伝えられな気がして、焦ったい。
「それと……」
どうしても、頼みたい事があった。迷うけれど、言わずに後悔はしたくない。
「少しお願いしても良いですか？」
「いいとも。言ってごらん」
こてん、と首を傾げながら歌うように仰る魘夢様。いつも優しいけれど、今日はご機嫌だからかいつも以上にその声色は柔らかかった。
「少し噛み付いて見てほしいんです」
「噛み付く？ どうして？ 去年一回噛んだけど、痛いのが好きなのかな。俺は痛がるAの顔も見れて嬉しいけど」
私の言葉に魘夢様は少し驚いた顔になった。当たり前よね。だけど、すぐにいつもの愉快げな笑顔が浮かぶ。流石、魘夢様。
「あの時は、魘夢様の表情が見えなかったので……。私、思ってたんです。魘夢様の歯を見る度、この歯に噛まれるんだって……。そう思うとなんだか一本一本が愛おしくて」
ついうっとり、魘夢様の歯を見つめる。そっか、と魘夢様が笑った。
「やっぱりAは変わり者だね。いいよ、どこを噛んでほしいか希望はある？」
首を横に振る。
「じゃあ、俺が決めるよ」
しばらく魘夢様が私の頭から指先まで眺め回した。「決めた」その声に少し緊張して答えを待つ。どこかな？ 魘夢様の両手が私の左手を持ち上げた。
「薬指にするね」
「……はい」
5本ある指の中から魘夢様が薬指だけを優しく選び、口元へと持っていく様子を眺める。
はう、と魘夢様の口が開く。舌で軽く私の指を撫でられる。少しくすぐったい。だけど、それも一瞬で、すぐに肉に歯が食い込む。
痛い……。包丁で指先を切ってしまった時とは比にならない。
少し出た血を魘夢様が飲んでいる。こく……こく……と動く魘夢様の喉仏や触れている唇が全てが愛おしくて思わず魘夢様の頭に右手を伸ばし、そっと撫でてしまった。
自分で自分に驚く。人に自分から、こんなにも積極的に触れた事はなかった。
「……ふふ、どうしたの？」
魘夢様が顔を上げる。その歯や唇には私の血が付いていた。
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ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 黒脛巾さん» 実はきゅんきゅんをイメージして書いていたので、そのように仰って頂けてとても嬉しいです！ありがとうございます！ (2021年1月24日 16時) (
レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
黒脛巾(プロフ) - めっちゃきゅんきゅんします・・・！更新応援しております！ (2021年1月24日 1時) (レス) id: d7d533f63c (このIDを非表示/違反報告)
ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 包帯無駄遣い装置さん» 本当は夢主視点にしようとしたのですが、怪我しているのに冷静に実況してたらおかしいなって思いまして笑。嬉しいコメントありがとうございました！ (2021年1月14日 19時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
包帯無駄遣い装置(プロフ) - ぶるうべりぃ♪さん» いや魘夢視点なんて素敵すぎじゃないですか (2021年1月14日 19時) (レス) id: 206c89cdd5 (このIDを非表示/違反報告)
ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 包帯無駄遣い装置さん» 包帯無駄遣い装置さん！ありがとうございます！魘夢様が素敵と仰って頂けて、書いている私としてはもう本当に幸せです！応援ありがとうございます！ (2021年1月14日 18時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
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