第82話 真夏の夜の悪夢 ページ35
「……?!」
夜中───。誰に起こされた訳でもなく、魘されて目を覚ます。寝巻きが汗でじっとりしていて心地悪い。
暑い夜はよく怖い夢を見る。怖い夢自体は嫌いではない。むしろ、非現実的さが時には好きだったりする。
だけど、今日の夢は怖い……というよりもとても恐ろしくて嫌な夢だった。魘夢様が鬼狩りに……。
そこまで考え、泣きそうになる。魘夢様に何かある事は、自分が傷つくより辛い。
「……大丈夫? 魘されていたね。どんな夢を見ていたのかな」
「……魘夢様」
私の目にかかっていた前髪を魘夢様が整えながら、声をかける。部屋の中が暗いから表情はよくわからないけど、その声色は優しくて気持ちが少しずつ落ち着いてくる。
「……少し……嫌な夢を見てしまって」
私はもう大人。なのに、年甲斐もなく涙が出そうになる。悲しくて、胸が苦しいのはいつぶりだったかな? 考えてみると、この家に来てから悲しくなる事が少なくなった気がする。
「へえ、どんなの? 聞かせてよ」
夢の内容を知らないからか、どこか楽しそうな魘夢様。内容を言ったら、魘夢様は気分を害してしまうと思うから言う訳にはいかない。
「……言えないです」
「えぇ、なんで?」
顔を覗き込まれ、月明かりに照らされたのと少し暗闇に目が慣れたのとで、うきうきしてる魘夢様の顔がよく見えた。薄い唇が愉快げに引き結ばれている。
「……それは」
理由を言ったら、必然的に内容も伝える事になる。寝起きでぼんやりしているからか、上手い言い訳が見つからない。夢の記憶と相まってすごくもやもやする。
しばらく、無言を突き通す私に魘夢様は「じゃあ」と呟いた。
「気分転換に海にでも行く? ここからだと少し歩くけど、夜明け迄には帰れるだろうし」
私の髪を弄びながら魘夢様が提案をした。汗ばんでいるからあまり触らないでほしい気持ちと実は嬉しい気持ちがごちゃ混ぜになる。
海に誘われるのは初めてで、少しずつ頭がしっかりしてきた。
「……行きたいです」
「うん。じゃあ準備してすぐ行こう」
夏は日の出の時間が早い。急がなくては。慌てる私に後ろから魘夢様が「そこまで慌てなくて良いよ」と少し呆れ気味に声をかけてくれた。
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ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 黒脛巾さん» 実はきゅんきゅんをイメージして書いていたので、そのように仰って頂けてとても嬉しいです!ありがとうございます! (2021年1月24日 16時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
黒脛巾(プロフ) - めっちゃきゅんきゅんします・・・!更新応援しております! (2021年1月24日 1時) (レス) id: d7d533f63c (このIDを非表示/違反報告)
ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 包帯無駄遣い装置さん» 本当は夢主視点にしようとしたのですが、怪我しているのに冷静に実況してたらおかしいなって思いまして笑。嬉しいコメントありがとうございました! (2021年1月14日 19時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
包帯無駄遣い装置(プロフ) - ぶるうべりぃ♪さん» いや魘夢視点なんて素敵すぎじゃないですか (2021年1月14日 19時) (レス) id: 206c89cdd5 (このIDを非表示/違反報告)
ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 包帯無駄遣い装置さん» 包帯無駄遣い装置さん!ありがとうございます!魘夢様が素敵と仰って頂けて、書いている私としてはもう本当に幸せです!応援ありがとうございます! (2021年1月14日 18時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
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