第69話 夜桜 ページ22
卯月───。
初めてこの家に来た時は、とても寒くて中々寝付けずにいたけれど、最近はぽかぽかと暖かいのでつい眠り込んでしまう。まさに、春眠暁を覚えずだ。
少し起きる気になれず、布団の中でぼんやりとこれからの事を考える。お仕事もしなくなってしまったし、そろそろ食べられるのかなと思っているけど、魘夢様はどうお考えなのだろう。
「眠いなら、もっとゆっくり寝ていても良いんだよ? 仕事もないことだし」
物思いに耽っていた私に部屋の影から魘夢様が声をかける。夜と違い、落ち着いた雰囲気を漂わせている。
「なんか、する事がないと気が滅入ってしまいますね……。魘夢様は日中はいつも何されているんですか?」
今更ながらの質問に自分で呆れつつ、身体を起こした。そうだね……、と考えるように人差し指を顎に当て、上を向く魘夢様を見守る。
「誰かの絶望する表情を思い出したり、人間にどんな風に夢を見せるかとか、あの方の役に立つにはどうすれば良いか、かな。あまり参考にはならないと思うけど」
楽しそうに笑う彼に私も笑う。魘夢様はお気付きでないけど、彼の仕草は可愛いと感じる時は多々ある。
確かに私は魘夢様のように、血鬼術を使う訳ではないしあまりその点は参考にならないかもしれない。
だけど、あの方───鬼舞辻様のお役に立つために、という点は魘夢様に置きかけると参考になるかもしれない。
「……A。今日、陽が落ちたら散歩しない?」
考え込む私を眺めながら、魘夢様がお散歩の提案をしてくれた。
「……はいっ!」
魘夢様とは時々、お散歩に行く。部屋の中で面と向かって話すのも好きだけれど、同じ方向へ歩きながら、話すのもそれはそれで好きだった。
嬉々と返事をする私に少し呆れて笑いつつ、魘夢様はじゃあそうしよう、と言ってくれた。
夜───。家から数分歩いた所にある小川に掛かっている橋から辺りを見回し、思わず溜息が漏れた。
この場所から見る月が綺麗である事は、初めてここを通った時から知っていた。だけど、桜が咲くこの季節、淡い桃色を月明かりと星々が照らしていて幻想的な世界がそこには広がっていた。
この辺りは町灯りがないからか、より星が輝いて見える。そんな春の空を映す川がなんとも綺麗だ。
大人になると少しずつ感動する事が減ってしまうように感じていたけれど、久しぶりに心が浮き立つのと同時に何処か切ない気持ちにもなってしまう。
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ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 黒脛巾さん» 実はきゅんきゅんをイメージして書いていたので、そのように仰って頂けてとても嬉しいです!ありがとうございます! (2021年1月24日 16時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
黒脛巾(プロフ) - めっちゃきゅんきゅんします・・・!更新応援しております! (2021年1月24日 1時) (レス) id: d7d533f63c (このIDを非表示/違反報告)
ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 包帯無駄遣い装置さん» 本当は夢主視点にしようとしたのですが、怪我しているのに冷静に実況してたらおかしいなって思いまして笑。嬉しいコメントありがとうございました! (2021年1月14日 19時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
包帯無駄遣い装置(プロフ) - ぶるうべりぃ♪さん» いや魘夢視点なんて素敵すぎじゃないですか (2021年1月14日 19時) (レス) id: 206c89cdd5 (このIDを非表示/違反報告)
ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 包帯無駄遣い装置さん» 包帯無駄遣い装置さん!ありがとうございます!魘夢様が素敵と仰って頂けて、書いている私としてはもう本当に幸せです!応援ありがとうございます! (2021年1月14日 18時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
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