第60話 香り袋 ページ13
「……香り袋ですか?」
今まで町で見た事はあるけど、買った事はない。初めて手にする香り袋が魘夢様から頂いた物と思うと嬉しくて、思わず鼻を近づけ香りを嗅ぐ。
ん? この匂いは……。
「そうだよ。まあ、入ってるのは俺の歯だけどね。ちなみに紐の部分は髪の毛」
「……は、歯?! え、歯って歯ですか? それに髪の毛……」
にこ、と笑いながらいつものとんでもない発言をする魘夢様。毎回毎回、もう何を言われても驚くまいと思っていても、彼は想定外の事をする。
いつもだったらそれもまた楽しいのだけど、今回は少し違う。
「どうしてそんな事を……」
私の視線を受けきょとんとした後、魘夢様は当たり前の事を教えるような表情で私を見下ろした。
「底辺の鬼が寄ってきても、これを見せれば向こうから逃げて行くよ。お守り代わりだね」
魘夢様は十二鬼月の1人。つまり、鬼の中ではかなりお強い方。だから、大抵の鬼はこの香り袋から香る匂いを恐れるという事、かな?
仰る意味は理解できるのだけど……。
「……あの、でも魘夢様。これを作ったせいでお口の中を怪我してしまったのでは? あーん、してください」
歯を自分自身で抜くなんて、想像を絶する恐怖と痛みを思い浮かべ、目に涙が浮かぶ。食べられる予定の人が何言ってるんだと言われたら、返す言葉がないけれど。
「ふふ、大丈夫だよ、ほら」
軽く口を開けられたので、中を覗いてみる。確かに彼の言う通り、どの歯も欠けていないし血も出ていないどころか、むしろ健康そのものだ。
歯の状態を確認し、頷く私を見て魘夢様がお口を閉じる。その口元には再び笑顔が浮かんでいた。
「心配してくれたの? 鬼は怪我なんてすぐ治るのに」
確かに鬼は怪我をしたり、疲労してもその瞬間から回復する事は前から聞いていた。愚かだね、と言いたげに笑っている魘夢様だけど私はとても笑えない。
「だって……、治ったって痛い事には変わりないじゃないですか……。なんでそこまで……」
なんで、その答えは私わかるような、わからないような。ある答えを期待してしまう自分がいる。
「うん、Aが他の鬼に食べられたら嫌だからね」
当たり前のようににっこりと仰る魘夢様。きっと、彼が仰っているのは、自分の物が誰かに勝手に取られたら嫌だとか、そういう意味。
それでも、嬉しい事には変わりなかった。
「……そうですか。ありがとうございます」
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ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 黒脛巾さん» 実はきゅんきゅんをイメージして書いていたので、そのように仰って頂けてとても嬉しいです!ありがとうございます! (2021年1月24日 16時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
黒脛巾(プロフ) - めっちゃきゅんきゅんします・・・!更新応援しております! (2021年1月24日 1時) (レス) id: d7d533f63c (このIDを非表示/違反報告)
ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 包帯無駄遣い装置さん» 本当は夢主視点にしようとしたのですが、怪我しているのに冷静に実況してたらおかしいなって思いまして笑。嬉しいコメントありがとうございました! (2021年1月14日 19時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
包帯無駄遣い装置(プロフ) - ぶるうべりぃ♪さん» いや魘夢視点なんて素敵すぎじゃないですか (2021年1月14日 19時) (レス) id: 206c89cdd5 (このIDを非表示/違反報告)
ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 包帯無駄遣い装置さん» 包帯無駄遣い装置さん!ありがとうございます!魘夢様が素敵と仰って頂けて、書いている私としてはもう本当に幸せです!応援ありがとうございます! (2021年1月14日 18時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
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