魘夢様に堕ちる (ページ7)

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第7話　冷たい背中ページ7

魘夢視点

俺が本当に人間を喰っている様子を見たら、流石にこの娘も怖がる素振りを見せるかもしれない。怖がって逃げようとしたら、すぐに襲いかかって喰ってやろう。

ああ、でも敢えて逃げ場のない汽車の中でゆっくりと追いかけて恐怖を煽るのも良いかもしれない。追い詰められて絶望するAを無理矢理押さえつけて喰うのも良いかもしれないな。そんな気持ちを込めての笑顔だった。

目の前の男に視線を戻し、顔をじっくりと見つめる。うん、やっぱり絶望に打ちひしがれる表情はたまらないよね。男の表情を充分堪能した後、喰い始めた。

A視点

『よろしくね、A』

そう言われた時、久しぶりに私の名前を呼ばれた気がした。いや、別に最近名前を呼ばれなかった訳でない。だけど、この方に呼ばれた時本当に名前を呼ばれたように感じたの。

「…………」

目の前で食事を───人間を食べている魘夢様を見て本当にこの方は鬼なのだと理解した。

人間がまるで……糸を引っ張られ元の形が崩れていく着物のように、崩れていく様子に吐き気が込み上げてくる。

近くに充満する匂いは魚屋さんやお肉屋さんの側を通った時の比ではない。

「うふふっ、やっぱり怖い？」

魘夢様が一度私を振り返ったが、私の視線は男の人の傷口に集中していた。溢れ出る血液……。

「……ゔっ」

くらり、視界がぼやけ真っ暗になる。最後に感じたのは、頭を床にぶつけた痛みだった。

心地良い揺れに目を覚ます。何があったんだっけ、とぼんやり考える中、視界に入ってきたのは誰かの肩と髪の毛だった。ああ、背負われているんだと理解したところで、少しずつ先程の記憶が蘇ってきた。

「ああ、起きたの？おはよう」

私を背負う背中が声に合わせて少し揺れる。

「お、おはようございます、魘夢様」

返事をしながら、彼の体温を感じていた。魘夢様の身体と私の身体は密着しているのに、思ったよりも冷たい。

この方は冷え性なのだろうか…？そんな事を考えながら、周囲を見回した。