魘夢様に堕ちる

第27話　愚かだけど ページ29

魘夢視点

『違いますからっ』そう恥ずかしげに言った後、Aはそっぽを向いてしまった。

自分より少し低い位置にある頭が愛おしくて無理矢理こちらを向かせたくなる。向かないというなら、首をもぎ取って向かせたくなる程に。

でも、そんな事したら人間はすぐ死ぬ。そしたら、苦しむ顔も見れないからやはりやめておこう。

そんな事に思いを馳せながら、少し前に疑問に思った事を改めてもう一度考えてみた。Aの幸せそうな顔と他の奴らの幸せそうな顔の何が違うのか。

考えてみるとそう難しい事ではないと思う。Aの顔は俺自身に向けられたもの、他の奴らの顔は都合の良い夢に───俺の術に向けられたものだから。

「……A」

「……はい」

そっと呼びかけると、ちらりと恥じらうようにAは見つめてきた。

「お話。するんでしょ？」

そう言うとAは花が咲くように顔を綻ばせる。その笑顔が心地よい。

そしてその表情を見て、なんとなく思った。きっとAは……俺の事が好きなのだろう。

愚かだなぁ。俺は人間の男のように、幸せになんてしてあげられないのに。

人間の女は自分を幸せにしてくれる男を好むものでしょう？ Aはそんな事もわからないのかなぁ。

だけど、俺もそんなAが嫌いな訳じゃない。むしろ、その辺の人間に比べたら結構好きだと思う。

でも、今まで好意を向けられた事も無いし、俺自身無惨様以外に好意を向けた事なんてないからどうすれば良いかわからない。

とりあえずわかるのは、約束通り俺がAを喰えば済むという事。人間の男と女は好きな奴と一緒になりたいから結婚する。

俺がAを喰えば、Aは俺の血や肉、骨になる。つまり一つになれて、ずっと一緒にもいられるんだよ。

好きな奴と一つになれるなんて、幸せだよね。人間の夫婦だって、一つになるでしょう？

でも、俺とAの繋がりはそんな関係より、ずっと強くて誰にも引き裂けない。普通の人間はそんなの本当の幸せじゃないなんて思うんだろうなぁ。

だけどそんなの関係ない。幸せの形は人それぞれ。そんな事を考えながら俺はAの話に聞き入っていた。

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