魘夢様に堕ちる (ページ28)

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第26話　幸せページ28

「あの、現実の魘夢様との時間を大切にしたい……。お話ししたい、なんて思うのは傲慢でしょうか？」

なんとか、顔を上げ彼の目を見て言い切る。言い終わると魘夢様は驚いたように目を少し開いた。やはり引かれてしまったか……、恥ずかしさと悲しさが混じり合い俯いてしまう。

「……いいよ」

「……え？」

優しい声色に肩の力がすとんと抜けるのを感じる。見上げると魘夢様は僅かに笑顔を浮かべていた。

人の不幸を笑う時の歪な笑顔や、作り笑いとかではなく、うっすらと微笑むような柔らかい表情。緊張の糸が解ける。

そんな私を他所に魘夢様はご自身の話を始めた。

「俺はさ。血鬼術で人間に幸せで都合の良い夢を見せる事ができるから、それが目的で近づいてきた人間は少なくなかった。ま、俺も最終的には、そいつらの不幸に歪む顔を見て喰ってたからお互い様だけどね」

その人達を嘲笑うように言った魘夢様を私は見守る事しかできない。

「Aはそんな現実の俺と関わりたいの？例えそれが君にとって都合が悪くても？」

確認するように魘夢様は私の方に身体ごと向ける。なんとなく真剣な気配を感じ、私も彼と向き合うように座り直した。

「……はい。私にとって大切にしたいのは都合の良い夢ではなくて、本物の魘夢様との時間なんです。どんなに都合が悪くても、ですよっ」

だって、私貴方の事が好きなんですもん、心の中で付け足す。魘夢様は少し驚いているのか、口元が小さく開かれた。

しばらくその状態が続いた後、魘夢様は我に帰ったように小さく笑った。今更ではあるがこの方の『うふふ』って笑い方は最高に可愛らしいと思う。

「やっぱり、Aってかなり嗜虐嗜好があるよね？」

側の壁に頭を預け、魘夢様が私を見やった。意地悪げに歪められた眉が少し腹立たしく感じる。

「そういう事、仰います？」

「うん、だって本当の事だもん」

俺何か間違ってる？と言いたげな顔をする魘夢様。当たらずとも遠からずで少しもどかしい。でも、やはり嗜虐嗜好か否か聞かれたら、答えは勿論決まっている。

「違いますからっ」

魘夢様だから良いんです、また心の中だけで叫んだ。きっとこういう事を素直に伝えられる娘は可愛らしくて人気だろう。友達も多いんだろうな。

だけど生憎私は素直に気持ちを伝えるのが苦手なんですよ、心の中で言い訳をする。視線を別の方に向けた私を魘夢様は可笑しそうに眺めていた。