第22話 気付かないだけで ページ24
「お父さん、あまりお酒を飲み過ぎないようにね。お母さん、家事を教えてくれてありがとう。あと正太郎、さっきは心配してくれてありがとうね。最近は特に寒いから身体を冷やさないようにね」
つい早口になる。これでもまだ伝えたりないが、先に外に出た魘夢様を待たせてはいけない。
「うん、お姉ちゃんも。またね」
「迷惑かけるんじゃないぞ」
「赤ちゃんができたら知らせるのよ」
正太郎、お父さん、お母さんの順で別れの言葉が来る。『またね』『赤ちゃんができたら』その期待には応える事はできない。
それが申し訳なくて無言で手を振り、家の敷居を跨ぐ。最後にもう一度だけ正太郎の顔を見ると、どこか泣きそうな顔をしていた。
つい抱きしめたい……、そんな衝動に駆られだけど、その気持ちを振り払い住み慣れた家の戸を閉める。
家の灯りが途切れ、辺りが暗くなった。それがまるで正太郎達との関係を表しているようで、心の奥底にひんやりしたものが渦巻くのを感じる。
「お別れの言葉はちゃんと言えたのかな?」
魘夢様の言葉に視線を地面から、彼へと上げる。
「……ふふ、泣いてるの?」
言いながら親指を私の目にやり、少しも残さないというように拭った。残りの指は頬に添えられている。
そして、その親指を自身の口の中に運ぶと、その口元は満足げに引き結ばれた。その姿は異質なのにどこか艶めかしい。
「……はい。正太郎があんな事を思ってたなんて……」
私の言葉に魘夢様が頷き『きっとさ』と話を始めた。
「Aが気付けなかっただけで君の事大切に思ってる人はちゃんといたんじゃない?」
魘夢様らしからぬ言葉に思わず、唖然として彼を見つめる。そんな表情に気付き、魘夢様は意地悪い笑顔を浮かべた。
「ま、今更気付いても遅いけどね」
「……それが、言いたかったのですね」
「そうそう、俺はAのその表情が見たかったの。わかってるね」
けらけら笑いながらもう一度私の顔を見る。私の中の悲しみを探すように見つめた後、見つからないと悟ったのか、歩き出した魘夢様に私も続いた。
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包帯無駄遣い装置(プロフ) - ぶるうべりぃ♪さん» ですね! (2021年1月10日 21時) (レス) id: 206c89cdd5 (このIDを非表示/違反報告)
ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 包帯無駄遣い装置さん» そうなんですよね!ムキムキ過ぎないところがまた素敵なんですよね!(続きはこみゅーの方にてお話しましょう!) (2021年1月10日 21時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
包帯無駄遣い装置(プロフ) - ぶるうべりぃ♪さん» 特に映画の上半身裸になっているとこ((((悪夢見せてあげようか?by魘夢 (2021年1月10日 21時) (レス) id: 206c89cdd5 (このIDを非表示/違反報告)
ぶるうべりぃ♪(プロフ) - 包帯無駄遣い装置さん» そう仰っていただけて、嬉しいです!映画の魘夢様も、原作の魘夢様もすごく可愛いですよね!コメントありがとうございました! (2021年1月10日 12時) (レス) id: 69ebf7d565 (このIDを非表示/違反報告)
包帯無駄遣い装置(プロフ) - やだ魘夢可愛いすぎ (2021年1月10日 2時) (レス) id: 206c89cdd5 (このIDを非表示/違反報告)
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