魘夢様に堕ちる (ページ21)

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第19話　加虐と嗜虐ページ21

「うふふ、寂しいのかなぁ？もしかして後悔し始めてる？俺なんかに会わなきゃ良かったって」

視線を床に落とした私の視界に入るように……、正しくは私の表情を覗き込むように魘夢様が見つめてくる。後悔しているのかと聞かれたけど、それは少し違う。

「そんな事ないですよ、ただちょっと正太郎がお兄ちゃんって存在に憧れてたので、申し訳ないなって……」

「そっか、Aにとって弟は大切なんだね」

俯き加減で話す私を魘夢様がうんうんと頷きながら眺める。

「そうですね……」

小さい頃正太郎は病気になりやすくて、それに対して私はあまり風邪をひく事がなかった。弟に付きっきりのお父さんとお母さんを見て寂しく思った事は幾度となくあったが、正太郎を嫌いと思った事は考えてみれば一度もない。

単純な事だけれどこの方に言われて、初めて弟をどれだけ大切に思っているか実感する。話が一段落したからか、魘夢様は今後の事を話し始めた。

「それはそうと、今後の事を決めよう。今日考えていたんだけどね、足入れするって伝えるのはどうかな？これからは、俺が日中身を隠してる家で一緒に暮らそう？今週末にでも俺が迎えに行くから。それまでは家族と最後の時間を大切にするといいよ」

仕事をしている間、私は何も今後について考えていなかったけど魘夢様がそれを考えてくださったと思うと嬉しかった。その気持ちが笑顔に表れる。

「……ありがとうございます」

「不思議だなぁ」

「……？」

私の笑顔を見た魘夢様がぽつりと呟いた。首を傾げ、ぼんやりと観察するように見られ、自然と頬に熱が上る。

「俺はね、前も言ったけど人間の不幸な顔が大好物なんだ。幸せに満ち溢れる顔なんてつまらないと思ってるよ。だけどね、Aが俺に向けて幸せそうな顔をしていると嫌な気はしない。むしろ独り占めしたい、なんて言ったら君は俺に失望する？」

この方は私が嗜虐嗜好でもあるとお思いなのだろうか？魘夢様になら何をされても、とは思うが決して虐められるのが好きなわけではない、はず。

「……失望なんてする訳ないじゃないですか。魘夢様は人の悲しむ顔が好きなので、私が失望されてしまう事はあっても、私が魘夢様に失望する事はないですよ」

言っているうちに恥ずかしくなってしまいつい視線が逸れてしまったが、なんとか伝えたい事を伝えきれた気がする。いつも本心なんて話す事はないから慣れない。