魘夢様に堕ちる (ページ20)

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第18話　惨めな夢ページ20

「……眩し」

朝日が顔に当たり、自然と目が覚める。まだ少し眠いが視界に飛び込んできた光景に昨日の事を思い出した。

ふと、周りを見回すと魘夢様の姿は見当たらない。隣にある布団は規則正しく折り畳んである。家を出る前に畳んでくれたのだろう。廊下から足音が響き、襖が開けられる。

「おはようございます！あれ、お姉ちゃんだけ？お義兄さんは？」

きょろきょろと部屋中を見回す正太郎に昨晩魘夢様と話し合った

「え……、民尾さんはね、お仕事の関係で正太郎達が起きるより先に家を出たの。挨拶できなくて残念って言ってたわよ」

「えー、そうなの？もっと話してみたかったのに……」

「……正太郎が話したがってたって伝えとくわ」

「本当？！やったぁっ」

残念そうに肩を落とす弟に申し訳なくなり、咄嗟に思いついた事を口にする。目に見えて嬉しそうにする弟に心の中で謝る。

きっと、正太郎は兄という存在に憧れている。昔よく『読んで』とせがまれた御伽噺は兄弟が登場するものが多かった。

正太郎には姉の私はいても兄はいない。だからこそ、きっと『魘夢様』という義兄ができた事がより嬉しかったのだろう。

「さ、朝ごはん食べに行こう。片付けが進まないから」

正太郎の肩を叩き、廊下へ出るよう促す。私も続いて廊下へ出ると、まだほんの少しだけ魘夢様の香りが残っているような気がした───。

いつも通りの生活が過ぎていく。ただ食べて、仕事をして、家に帰る───。

家に帰るための汽車に乗り、席に座ったところでため息が漏れる。あまりにも普段と変わらない生活に昨日の事は夢だったのではないかとい始めていた。

いくら、人と距離を縮めたいからと言って、なんて惨めな夢を見ていたのだろう私は。そんな事を考え始めた時───。

「やあ、A。悲しそうな顔をしているね。もっとよく見せてよ」

突然、頭上から声が降ってきて、窓から廊下へと視線を移す。声の主は昨夜ぶりに会う魘夢様だった。手を後ろにやり、笑顔を私に向けている。

「……魘夢様」

私の返事に応えるように魘夢様は、隣へと腰を下ろす。自然と縮まった距離は居心地が良い。

「家族には俺の事怪しまれなかった？」

「あ、大丈夫でした。正太郎が魘夢様とお話ししたかったって寂しがってましたよ」

魘夢様の質問に、今朝の状況を伝える。今後、正太郎が魘夢様とたくさん話す事はないとわかっているからこそ、期待を裏切ってしまう事が可哀想だった。