魘夢様に堕ちる (ページ12)

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第10話　初めての事ページ12

「……Aはさ、俺に色々な初めての事を経験させてくれるよね」

「え……？」

少しの間の後、呟くように魘夢様は言った。その表情は先程までの楽しくてたまらない、という笑顔ではなくどこか感慨深さを与えるもので、それがとても印象的で今度は私が彼の言葉を待つ。

「A。俺はね、Aの数倍は長く生きているけど、今日初めて会って今まで感じた事のない経験をたくさんしている気がする」

空を仰ぐように見つめた後、視線を私へと魘夢様は戻す。その顔には落ち着いた表情が浮かんでいた。

「え、さ、数倍……？え」

年齢の話も気になるが、その後の言葉はもっと心に刺さるものだった。こんな言葉向けられた事は今までない。嬉しい反面、信じられない気持ちもあった。

「うふふっ、あまり歳が離れていないと思っていたでしょう？」

驚いて言葉が出ない私に、年齢に驚いたと勘違いしているのか可笑しげにしている。いつも通りの笑顔だ。

「それもありますけど、でも……」

魘夢様の今の言葉は嬉しかった。私も同じように思っていただけに余計に嬉しい。

「……でも？」

言葉が出ずまごつく私に魘夢様が優しく先を促す。今更、引くわけにもいかない。いつもは人に本心を話す事なんてないが、きっと人は本心をお互いさらけ出した方がわかり合える。

「あの……、私も魘夢様に会って初めてだなって感じたり、久しぶりだなって感じる事がたくさんあって……。魘夢様が同じような事を仰るからびっくりしてしまって……」

上手く言葉が出ない。普段本心を話さないツケがここにきて回ってきた。もごもご言うばかりで伝えたい事がちゃんと伝わっているかわからない。

「へぇ、そうなの？じゃあ、Aも俺と同じで変わり者兼嫌われ者なのかなぁ」

納得したように頷く魘夢様に驚く。

「きら……確かに馴染めてないですけど」

「だけど、なあに？」

嫌われてない、そう言いたかったが自信は持てなかった。黙り込んでしまった私が面白いのか魘夢様はにこにこ顔で私の反論を待っている。

「……なんでもないですっ、それより今どこに向かっていらっしゃるのですか？」

こうなったら無理矢理話を逸らしてしまおう。先程から気になっていた疑問を口にした。

「ああ、Aの家だよ」

それ以上追求はせず、魘夢様は答える。そこである疑問が浮かび上がった。