３５話 ページ36
─ノースside─
「うおっ！つめてェ！」
「本当にただの水だねぃ。この重量でどうやって浮いてるんだよい？」
『能力なんてほとんど魔法ですからねー。エース、コップでこの水掬ってみて』
「え、掬えんのか？...お、おお！？水入った！！飲めんのかこれ！」
『もちろん。ただの水だからね』
雨水でも海水でも水道水でも井戸水でも湧水でもない。ホントにただの真水。
なんの不純物も混じってないから安心安全。この能力のおかげで飲料に困ったことないんだよね。けっこー便利。
だから私の身体は電気も通さない。雷が落ちてもヘーキだし敵にその系統の能力者が居てもモーマンタイ。
「ノースちゃーん！！」
大きな声で名前を呼ばれて身体を起こした。見れば両手に樽を抱えて満面の笑みのサッチさんが。
キレイな水の方がもっと美味しい料理が作れるから分けて欲しいらしい。即オッケーを出していくらでもどーぞって言えばありがとなってまた笑う。
よく笑う人だなぁ。ホントに海賊？ってくらいここの人たちは明るい。
強面で体格の良い人もいっぱいだけどそれ以上に優しい人ばかりだ。
四皇"白ひげ"率いる白ひげ海賊団。傘下の海賊も少なくない。海軍が迂闊に手を出せない程の戦力。縄張りの多さ。何より一般市民が感謝してる。
私は海賊だから即逮捕って考えは好きじゃない。海賊=悪じゃないから。
結局海軍は脅威になる存在を消したいだけだ。何かが起きれば海賊に罪を被せて、新聞記事にはありもしない事を自分たちに都合よく捏造して載せる。
そんな奴らが"正義"を語るなってね。
あー...もー最悪だ。海軍への不満が溜まりに溜まってる。海兵の中にも良い子は多いんだけどね。軍曹ちゃんみたいな優しい正義を持ってる子もちゃんといる。
分かってるよ。分かってるけど、それを上の自称お偉いさん方が握り潰すから嫌になるんだよ。
チャプ...
『わはは、冷たいよ〜』
騒ぐ皆を見ながら嫌な方に考えがいっちゃって少し俯いた。
手元にあるお酒の入った杯を揺らしていればおでこに冷たいのがあたって少し濡れた。
顔をあげれば白鯨が目の前に居てすり寄ってくる。この子たちは私が作ったものだから私の考えが分かる。心配してくれてるんだろーな。
ありがと、の意味を込めて口にちゅーした。こうすると水魚たちが喜んでくれるから。
何故か野太い悲鳴が甲板に響き渡ったけど。
「え、ノースちゃん可愛すぎじゃない？？」
『サッチさん、水零れてますよー』
▽
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作者名：えると。 | 作成日時：2022年9月2日 22時
