旅立ち ページ3
ASide
私には、前世の記憶がある。
日本という国で生き、２５歳で事故死した女の記憶が。
いきなり何を言い出すのかと、普通の人なら思うだろう。
だがこれは、紛れもない事実だった。
「お、A！おはよう、いい天気だな」
『おはよ〜。ね、絶好の旅立ち日和』
「そうか、今日だったな。ま、ゆっくり別れていけや」
『そうする。ぐるっと島を散歩してくるね』
私が暮らしているのは、北の海に位置する小さな島、「ムスビ島」。
人口１００人にも満たないこの島は、一年を通してあたたかな気候と自然に恵まれ、皆家族のように穏やかに暮らしている。
見慣れた町をゆっくり歩きながら、私はこれまでの日々を思い起こしていた。
「あら、Aちゃん。ユリさんとラザさんは？」
『ばあちゃんは道場で朝稽古。じいちゃんはまだ寝てるんじゃないかな』
「こんな日にまで、相変わらずだね」
『マイペースの権化だからね』
私はここで、生まれた時から祖父母と共に過ごしてきた。
両親は海賊で旅に出ていたが、時折島に帰ってきては私を可愛がってくれた。
祖父母も元海賊で、私は彼らにたくさんのことを教わった。
子どもの頃は、前世のことなど何も気にせず、ミエット・Aとして生きていた。
今から５年前、８歳の時だ。
私は前世を思い出した。
ある日、見たこともない不思議な果実を見つけ、好奇心を抑えきれずに食べてみた。
非常に不味かった。
不味すぎて、吐き出す前に思わず飲み込んでしまった。
そしてその不味さ故に意識が遠のいていく中、私は走馬灯のようなものを見た。
天にまで届きそうな高い建物。
道を走る鉄の獣のような乗り物、中で人が動いたり喋ったりする箱。
美味しそうな料理や、数えきれない程大勢の人々。
それら全て、島から出たことのない私は、初めて見るはずのものだった。
けれど私は、それら全てに見覚えがあった。懐かしささえ感じた。
それは私の前世の記憶だったのだ。
気付くと同時に、今世の暮らしで見聞きしたことや経験したことが脳裏を過る。
昔から何かと、違和感を覚えることが多かった。
広く青い海、凄い色の食べ物、バカでかい魚、富と名声を求める海賊、海賊を追う海軍。
今しがた自分が食べた、不思議な果実。通称、悪魔の実。
――『ここ、ワンピース世界やんけ』
呟きを最後に、私は気絶したのだった。
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うみ(プロフ) - 読んでいく内に作者さんとはアニメの好みが似てる気がしてきた。Dグレいいですよね……！！！ (2022年9月3日 22時) (
レス) @page50 id: 9a2ffdd6e5 (このIDを非表示/違反報告)
月花(プロフ) - めちゃめちゃ好きです！！更新楽しみにしてます！ (2022年8月31日 4時) (レス) @page28 id: d0a5d42c58 (このIDを非表示/違反報告)
つな(プロフ) - あまりにも素敵なお話しすぎて感動してしまいました、更新楽しみにしてます！ (2022年8月31日 1時) (レス) @page28 id: 552499de56 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さやま | 作成日時：2022年8月29日 16時
