六話 ページ8
「他にも魔法士の素質を育てる名門校は多いが、代表的で、尚且つ実力も家柄も関係なく入学している生徒が多いのは俺の中ではソコだけだ」
「そう………ですか」
俺は軽くふ、と息を吐く。
取り合えず少しでもここの情報を知れたことは第一歩だ。ひとまず、少しは安心だな、と思っていると思い出しようにおじさんが口を開いた。
「ああ、そうだ。お前の近くに馬車はなかったけど、何かあったのか?」
「いや、ただの俺の私情」
「ほーん、あと暇だったらこれ見とけよ」
ほいっとどこからかおじさんが俺に雑誌を手渡した。
そこに映っていたのは毛先にかけて淡い紫な髪を持った美しい人物。
「うわ……きれーな人」
不意にそんな声が出てしまう。それを何故か誇らしげに見つめるおじさんにムッとしてしまう。するとさっきと違って眉をふにゃりとまげて語りだした。
「その人はヴィル・シェーンハイトっていってな。さっきも話したナイトレイブンカレッジの生徒さんなんだが、すっごい美形だよなぁ。俺も友人に紹介されて買ってみたんだがまんまとハマってしまってよ」
「へぇ、確かに俺がいたとこにもこんなに美人な人見たことないぞ」
「あ、言っとくけどその人、男だぞ」
「え、この人男なの?!」
すると、おじさんはケラケラとおかしそうに笑う。「だよなぁ、ほんとに綺麗だもんなぁ」とうわごとの様に呟きながら馬を操縦する。古めかしいラジオをおじさんは流しながら、ふんふんと機嫌よく鼻歌を口ずさんだ。
「それの曲歌ってる人、キレーな声だよね」
「あ?これもそのヴィルさんって人の曲だぞ」
「うそ、顔良くて歌もうまいとか人生勝ち組じゃん!」
お前面白い奴だな、そう言うとおじさんは俺の頭を乱雑にも優しく撫でる。人にあまり撫でられることはないからどこか気恥ずかしく思いながら俺はおじさんの手を振り払った。
淡々と進んでいく曲にAの曲の調子に乗って軽く歌い始める。聞き苦しくないハイトーン。一体どこから出しているのか分からないほど高く、黎明を思わせる透明感に反して力強い歌声はたっぷり後奏まで食い込んだ。その瞬間、おじさんの手が止まる。その様はまるで肺活量の化け物だと、誰かが言った。締め括りのギターは荒々しくも繊細なチョーキングだ。最後に打たれたバスドラムと一緒に終わりを告げた曲の最後。
「お前……歌うめぇな」
Aの声に始終圧倒されたおじさんはどこかしらげにそう言った。
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レオ - とっても面白いです。続きが気になります。 (1月4日 8時) (レス) @page48 id: 8c9a5c91e3 (このIDを非表示/違反報告)
夕闇柳 - たまたま30話見ていてカリムがカルムになっていました。 (11月25日 8時) (レス) @page31 id: a9dd4c9262 (このIDを非表示/違反報告)
ウイ(プロフ) - ふぎょあ、完結されてるんですね…この作品、めちゃ好きです。まだ占ツクにログインしてなかった頃、読みまくってました笑 ねっとり様に届くか分かりませんが、更新、お疲れ様でした。ほんとに本当にこの作品がこれからも大好きです!!!!!! (6月26日 7時) (レス) @page48 id: 154e73901c (このIDを非表示/違反報告)
ねっとり - 雨中猫さん» アカウントを作っていなので急遽この形ですが作者です。コメントありがとうございます。「命に嫌われている」素敵ですよね、番外編でも他の歌とかも書いてみたいので気長に待ってくれると嬉しいです (2022年2月5日 23時) (レス) id: ad0790befa (このIDを非表示/違反報告)
雨中猫 - 主人公ちゃんに命に嫌われている歌ってもらいたいです! (2022年2月4日 19時) (レス) @page27 id: 79b86edfa1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねっとり | 作成日時:2022年1月20日 16時