三話 ページ5
禍々しいほどの匂いが鼻をかすめる。
太陽が沈み、極寒の寒さが広がる、月が高く上る暗い夜道にAの声が響いていた。
怖いほどに辺りが静かになる。
さっきまで野鳥の泣き声や獰猛な動物たちの唸り声で響いていた森が不自然と言いようがないほどに、無音だった。
＿＿気味が悪ぃな。
仏頂面で平静をつくろっても意味がない、Aの額からは冷たい汗が頬を伝って床に落ちた。
歌い始めた途端、目の前の雑草が一気に成長し、俺の前でユラユラと命令を待つようにうごめいていた。たまに雑草のツタが俺の身体に触れてヘンに緊張してしまう。そのことを踏まえてか、植物たちは怖くないよ、と言うように小さく美しい花を咲かせては俺の近くに置く。どうやら彼らなりの信頼表現らしい。
そんな彼らを横目で流し、曲のサビに入るあたりで谷よりの深く息を吸う、この曲はここのサビから雷のような激しい盛り上がりが特徴だ。しかしそれ以前にこの植物達の反応が気になってしまう。歌の盛り上がりでコイツらはどんな反応をするのか。若干の期待と不安を矛盾にも抱えて俺は曲に想いを馳せる。
夜闇をかっ捌くように落ちた霹靂に酷似した男の声。腹の底を貫かれたような鋭い重低音が耳の奥でいつまでも反響し、消えてくれない。
すると、次第に目の前の植物達も、どこか不規則に動き出し、その瞬間”植物”の存在感は増し、人ではなく植物で出来た騎士のような見た目のものが三体ほど出てきた。一体は斧、もう一体は剣。もう一体は槍。となんとも、物騒極まりない凶器を手に持ち俺の歌を聞き入れるように目の前で片膝を床につけ崇めるような態勢になったきり動かない。
植物から、禍々しいほどの鬼気を放つ騎士が出てくるとは思わず、一瞬、怖気づいてしまい息を呑んだ。
寒さが段々と強くなっていく。そこで気づいてしまったのだ。
あの騎士たちが動かない理由。寒さで凍ってしまっているのだ。実際に植物と土が固まってボンドに接着されたように動かないのだろう。
なんとか生き残るために、出した植物達も全滅。明らかに絶対絶命だ。
脳内に早く酸素を取り込め、と警報が鳴る。
しかし、開いた喉は冷たい冷気でやられ、声はほとんどかすれる。酸素を取り込めば冷たさで肺が壊死してしまうのは、本能でわかった。
息が出来ない。
目の前で動かずに跪く植物達に、俺は近寄り消え去りそうな声で囁いた。
「死ぬ間際くらいは、役に立て」
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レオ - とっても面白いです。続きが気になります。 (1月4日 8時) (
レス) @page48 id: 8c9a5c91e3 (このIDを非表示/違反報告)
夕闇柳 - たまたま30話見ていてカリムがカルムになっていました。 (11月25日 8時) (レス) @page31 id: a9dd4c9262 (このIDを非表示/違反報告)
ウイ(プロフ) - ふぎょあ、完結されてるんですね…この作品、めちゃ好きです。まだ占ツクにログインしてなかった頃、読みまくってました笑 ねっとり様に届くか分かりませんが、更新、お疲れ様でした。ほんとに本当にこの作品がこれからも大好きです！！！！！！ (6月26日 7時) (レス) @page48 id: 154e73901c (このIDを非表示/違反報告)
ねっとり - 雨中猫さん» アカウントを作っていなので急遽この形ですが作者です。コメントありがとうございます。「命に嫌われている」素敵ですよね、番外編でも他の歌とかも書いてみたいので気長に待ってくれると嬉しいです (2022年2月5日 23時) (レス) id: ad0790befa (このIDを非表示/違反報告)
雨中猫 - 主人公ちゃんに命に嫌われている歌ってもらいたいです！ (2022年2月4日 19時) (レス) @page27 id: 79b86edfa1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ねっとり | 作成日時：2022年1月20日 16時
