十五話 ページ17
「なぁ、お前の言うヴィルさんって、ヴィル・シェーンハイトか？」
どこか興奮してそう言うAに、うんそうだけど。と返すとAの表情は分かりやすく機嫌がよくなる。
「ああ、そうか。そうだったな。シェーンハイトさんってここだったなぁ」
楽しげに口角を上げて笑う俺に、エぺルはおずおずと言った様子で尋ねてきた。
「えっと、ヴィルさんのこと知ってるの？」
「知ってるも何も、俺のジジイがシェーンハイトさんのファンなんだよ、あの人のこと俺も雑誌で初めて見たんだけど、きれーな人だよなぁ」
ジジイのことをまるで自分のように熱く語るAの様子に自然にエペルの口元は緩んでいく。
「好きなんだね、ヴィルさんのこと」
「おうよ。あの人の曲で好きなのがさ、」
そう言って俺は腰を掛けていたパイプ椅子から離れて、古く埃かぶったギターの元に行く。弾こうとしたのを察してなのかエペルが声をかけてきた。
「あっ、それ。ここの教室にあるのはほとんど使えない楽器たちなんだ。音も外れてて、多分どうしようもないよ」
くるり、とエペルの方へ顔を向けたAの顔にニヤリという表情が浮かぶ。何するつもりなんだろう、とわずかに戸惑いの表情がエペルの顔に浮かんだ。
「なーんだ。弦も切れてねぇし、使えんじゃねえか」
そこにギターはあったが本当にボロボロだ。ただ、本当は新品なのかもしれないと錯覚するほどの速さと正確さで音を直感でAは合わせて弦を弾く。控え室の静けさが残る片隅でそれはとてつもなく異質で、しかしかと言って、エペル以外がAの様子に気付くことはない。それはまるで、嵐の前の静けさのように不気味で、これから起こる何かを予感させるようだった。
「確かー…、こんな曲だったよな…」
しばし、Aのギターセンスに見惚れていたエペルだが、ドンッ！！という激しい歪みを利用した大音量のリフが直撃した。
それは紛れもなくヴィルさんの曲で、雷鳴のようなその音を、俺は涼しい顔で奏でる。前奏はまさしく、ヴィルの透き通った歌声をギターで表現していた。音の作り方も上手い。初心者では楽譜をさらうことすら難しいメロディラインをAはさも当然のように弾きこなす。時折、癇癪のようなピッキングを織り混ぜながらイントロを奏でた。
「ふぅー……、どうだ？」
弾き終わった俺はエペルのほうを見る。しかし、当のエペルは俺の表情を見て離さなかった。
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レオ - とっても面白いです。続きが気になります。 (1月4日 8時) (
レス) @page48 id: 8c9a5c91e3 (このIDを非表示/違反報告)
夕闇柳 - たまたま30話見ていてカリムがカルムになっていました。 (11月25日 8時) (レス) @page31 id: a9dd4c9262 (このIDを非表示/違反報告)
ウイ(プロフ) - ふぎょあ、完結されてるんですね…この作品、めちゃ好きです。まだ占ツクにログインしてなかった頃、読みまくってました笑 ねっとり様に届くか分かりませんが、更新、お疲れ様でした。ほんとに本当にこの作品がこれからも大好きです！！！！！！ (6月26日 7時) (レス) @page48 id: 154e73901c (このIDを非表示/違反報告)
ねっとり - 雨中猫さん» アカウントを作っていなので急遽この形ですが作者です。コメントありがとうございます。「命に嫌われている」素敵ですよね、番外編でも他の歌とかも書いてみたいので気長に待ってくれると嬉しいです (2022年2月5日 23時) (レス) id: ad0790befa (このIDを非表示/違反報告)
雨中猫 - 主人公ちゃんに命に嫌われている歌ってもらいたいです！ (2022年2月4日 19時) (レス) @page27 id: 79b86edfa1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ねっとり | 作成日時：2022年1月20日 16時
