はじまったとき2 ページ11
★すばる★
何度も紙を見直すけど
近くの電信柱に書かれた場所と
店の名前は合っている
女が一人で入る店では到底ない
恐る恐る暖簾をくぐる
ガラガラと引き戸を開けると
焼き鳥の煙と
おっちゃん達のガハハした笑い声
入り口付近に突っ立ってると
バンダナ巻いて加えタバコしながら
焼き台に立ってる店主らしき人が一言
店主「いらっしゃい。にーちゃん、
Aちゃんの連れ？」
す「あ、はい」
店主「奥」
言われるがままに進んだ店内は迷路のようで
そこいらに
おっちゃんが溢れてて
本当にここにAがいるんやろか
ずんずん進むと
いっちゃん奥の
カウンターの端に
Aが一人で飲んでいた
オレに気がつくと
少し目を見開いて
でもすぐににっこり笑って
左手を挙げた
隣にドンと腰かけて
す「俺…」
と言おうとしたら
まだ頼みもしないビールが出された
す「頼んでおらんけど」
ポツリと呟くと
A「まあまあ、とりあえずビールでしょ」
それから
オレに謝る隙を与えないようにしてんのか
Aはホンマ
フツーに
いつもと変わらん調子で
話を続ける
最初はバツが悪くて
よー喋れへんかったけど
Aがあんまり
よく喋って笑うから
どーでもいいこと
ずーっと話してた
しこたま飲んで
しこたま話して
店のお客も減ってきて
Aがたこ焼きは
なんでタコしかダメなんだ
とか分けわからんこと
言いはるから
ちっと理由を考えておったら
右の肩が急に重くなる
右を見ると
寝ているA
そこで寝るか？
たこ焼きのくだりどうなるねん
呆れて笑って
左手でジョッキを飲み干す
あの店主がそれを見つけてオレに言う
店主「うちタクシー呼んだり出来ねぇから、
靖国通りまで連れてってタクシー拾ってやって。」
す「あ、はい」
お会計を済ませて
軽く会釈し
半分寝ているAの肩を組んで
店を出ようとすると
店主「にーちゃん、Aちゃんは気を許した相手と飲んだ時だけしか潰れねぇよ」
とにっこり笑った
この人笑えるんだと思いながら
また来ますと店を出た
靖国通りまでは結構あるから
仕方なくおんぶ
てか
俺が悪いとはいえ
おんぶかよ…
背負うと
Aの香りと
柔らかな感触で
せっかくの酔いが覚めていく
す「A…」
す「ごめんな…」
コクりと頭が動いた気がしたけど
声は聞こえなかった
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作者名：ユキコロ | 作成日時：2017年2月27日 10時
