俺らの幼なじみは姉じゃない (ページ39)

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姉じゃない38 ページ39

研磨side

Aに西側の階段に連れて行かれて一緒にお弁当を食べに行った。

Aは「気分。」と言っていたけど、本当は違うのを俺はわかっていた。

西側の階段は教室と離れていて、人気が少ない。
ここに来る人はそうそう居ない。

ていうことは、誰にも内緒で俺に話したいことがあるってこと。

それも、灰羽との練習にクロが居ない時を狙ってだから、余程のこと。
「ごちそうさまでした。」とAが両手を合わせたのを見て、「…何があったの。」と静かに聞く。
「流石幼なじみ。」と笑うも、それは嘘だってわかるから、なんの意味もない。

Aがぽつりぽつりと話す。

「…前さ、烏野のとこ、行ったよね。」

「うん。」

「烏野の監督に、けいさんに伝えた、酷い言葉…さ。……全部、私が…考えたのっ…。」

まるで罪の懺悔のように話すAは顔を覆って、涙を隠していた。
Aが誰かを傷つける言葉を使う。
それは有り得ないことだから、俺は目を丸めた。

「うーおじいちゃんの、言葉…私、ばかりだからっ…覚えられないよっ…。『ハッパかけてやれ。』しか言われてないのに…たくさん、たくさん酷いこと、言った…。」

酷いこと、と言ってもそこまで酷いことではないと思う。
「…そんなに気にしてないと、思う。」と素直に話すと、Aは首を振った。

「…誰かを、『成長させる為に傷つく覚悟』が、必要だって……この前のけいさんのやつで、学んだ。でも、それに慣れてしまったら…？もっと、酷いこと、言って…っ…暴力、して……っ！！…私もっ…父上様、みたいに…なっちゃ…うのっ…嫌だっ！！！」

初めて聞いた、Aの『嫌だ』。
それは産みの父親のように、暴言や暴力を振るってしまう、酷い人間になりたくないというものだった。

「全部、全部……エゴ…。自分が、父上様みたいに…なりたく、ない…だけっ…！！傷つきたくない、だけっ！！

…私、最低だ…。本当の…クズは…私だっ…！！！」

そんなこと、あるわけないのに。

「……ずっと…ずっと、そう考えて、抱えていたの？」

その罪の意識を。

Aは声を抑えながら、小さく「…ん」と返す。

ようやくわかった、Aが暴力や暴言を嫌う理由は、父上様と同じようになりたくないから。

そんなこと、ありえないはずなのに。

それでもAは身体を小さく震わせていた。

「A、大丈夫。大丈夫だから。」

俺はその小さな身体をさすった。