【オレンジ】妥協というか何というか【烏衣】 ページ10
「俺が世話やいちゃうからお母さんって呼ばれるのかな」
「いやしい兄がお母さんだからお母さんって呼ばれるんだよ」
椎名のぼやく声に千代が素早く返事をした。その言葉に椎名は肩を落とす。そういうことではないと思うのだ。
「……ねぇ、具体的にどういう所が“お母さん”なのか教えてくれる?」
前々から聞こうと思っていたことをついに尋ねてみた。千代は少し首をひねりながら、指を折りつつこう言う。
「えっとー、頼んでないのにベストなタイミングでお弁当出してくれる所とか、朝俺らを起こす時の雰囲気とか、ご飯作ってる時の背中とかー、あとー……」
多すぎるので割愛。ただこれ以降の事柄は尋ねた側の椎名をさらに困惑させることばかりだったとだけ言っておく。
要するに、“母”を感じさせないようなことまで千代は上げていたのだ。
「……ほとんどがお母さんと関係ないような気がする」
眉間に軽くシワが寄る。千代の中の母とは一体何なのかわからなくなってきた。
「いーやお母さんに必要な要素ばっかだと思う!」
訝しげな表情の椎名とは打って変わって千代の顔には輝かしい笑顔が浮かんでいた。
「俺ン中のお母さんの理想にしい兄が合致してるからついつい“お母さん”って呼びたくなるんだよねー!!」
庭の方から千代を呼ぶ声がする。千代はそれに大声で応えて庭へと飛び出して行った。
後に残った椎名は思う。千代の中の“お母さん”は色々と間違えてしまったのだろう、と。
「(……まあいっか)」
最近は妥協できる気がするし。椎名は一気に騒がしくなった庭を見つめて微笑んだ。
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