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何も言わずに俺はAの隣にそっと腰を下ろした。
辺りに響くのはAのすすり泣く声。
ポケットからハンカチを取り出して、
視線を合わせることなく片手でAに差し出す。
それを無言で受け取るA…いつもの流れ。
今まで、Aが泣くところを何度か見てきた。
その度にこうやって隣でハンカチを差し出して、
何も言わずに傍にいた。
でも、Aが仕事以外で泣いたのは初めてだ。
樹だから。
喜ぶのも怒るのも哀しむのも…
Aの感情を100％引き出せるのは、樹だ。
俺じゃない。
俺じゃダメなんだ…
北「…落ち着いたら戻ろ」
桃「無理…樹、怒ってた……
勝手にしろって…」
北「樹が本気じゃないことくらい分かってるでしょ」
桃「……そう…だといいな…」
北「多分向こうも同じこと考えてると思うけど？苦笑
…ま、万が一フラれたら呼びな。
……はぁ、本当に俺の親友、手が掛かって大変」
桃「ふふ……北斗…ありがと」
まだ瞳に涙を貯めながら、ぎこちない笑みを浮かべるA。
本当は今すぐ抱き締めたい。
暴走しそうな手を必死に抑えて、Aの頭を撫でた。
さらりと指の間からAの髪の毛が通り抜ける。
ねぇ、気付いてよ。
……嘘、絶対気付かないで。
俺は、ずっと君の親友。
誰よりも大切で愛しい人。
この先の時間もずっと、共に過ごそう。
…永遠の友情を君に誓うから。
樹「あっ…」
非常階段の扉を開けふたりで廊下に出ると、
そこには額に汗を浮かべた樹がいた。
俺の姿を見て、ふっと視線を逸らす。
俺はAの背中を押した。
北「ほら、言う事あるんだろ」
桃「ちょっ！……樹、ごめんなさい。
心配してくれてただけなのに、酷い事言って…」
樹「え…いや、…俺こそ嫉妬して八つ当たりした。
俺も…ゴメン……」
北「はい、仲直りね。
ま、今回言うの忘れてたし、俺も悪かった」
樹「北斗……」
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作者名：ももじゅり | 作成日時：2020年10月17日 2時
