10話 ページ12
昔から、Aのそばにいると不思議と落ち着いた。
いつも甘酸っぱい香りがしていたからか、それとも屈託のない笑顔を俺に向けてくれていたからか。
妙な薬を飲まされてからは、尚更Aの隣にいたいと思うようになった。こんな俺でもAは普通に受け入れてくれた。
昔からAは口調こそ乱暴だったけど、優しくて可愛い奴で。12年後もそれは変わらないままだった。
一緒にいたい…Aと一緒に幸せになりたい…
そんな浅ましい欲が、頭の中をぐるぐると駆け巡る。我ながら身勝手で我儘だな、と思う。
「マイキー、何食べたい?…っても、今あるもんでしか作れねぇけど」
ふと冷蔵庫の中を色々見ていたAが、俺に声をかけてきた。
食べたいものは?と聞かれて、すぐに思いつくものがあった。
「………オムライス」
お子様ランチでも良かったが、流石に難しいと思ったので、もう1つの好物を口にした。
「オムライス?りょーかい………あー、今ウィンナー切らせてるから、魚肉ソーセージで良いか?食べ応えがあるぞ」
「Aが作ってくれる料理だから大丈夫」
内心Aが料理出来るとは思っていなかったけど、それは心の内にしまっておく。
「分かった。美味しいのを作ってやるからな」
昔と同じ屈託のない笑みを、Aは浮かべた。
それが、今の俺にはとても眩しかった。
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作者名:米グルイ | 作成日時:2022年8月22日 22時