＊ ページ5
ふっと視線を向ければ、水木たちの座る向かい側から、不思議な雰囲気を纏った銀色混じりの白い髪をした老人のような男が顔を伏せて、座り込んでいた。
「お主。死相が出ておるぞ。この先、地獄が待っておる。ワシには、見えるのじゃ。見えないものが見えるのじゃ」
先程まで騒がしかったはずの車内が妙に静かさをおびている。水木は、少し苛立った様子で男へ視線を向ける。
「なに、寝ぼけたこと言ってんだ。爺さん」
水木が声をかけた事により、顔を伏せて表情が見えなかったはずの男が急に顔を上げて、水木を視線を向けた。老人と思えた男は、白い髪質の割には若々しかった。ぎょろりとした大きな瞳から降り注がれる視線が妙に突き刺さる。
「現に、そら。お主の後ろ。大勢ついておる」
車内の中に鐘が鳴り響くのと同時で、水木の背後から現れる無数の人の影。持っていたマッチの棒が火で小さくなっているのも気付かず、水木は呆然としながら、咥えていたタバコを無意識のうちにぽとりと地面へ落としてしまった。
「あちっ！」
火の熱さを指先で感じて、思わず持っていたマッチを地面へ放り投げてしまった。はっと、気がついた瞬間。車内はいつも通りの明るさに戻っていた。そして、なによりも。先ほどまで隣に居なかったはずの蓮が窓に頭を預けて、あどけない表情をして、眠りかけていた。なんだが、その様子に水木は酷く安心して『夢でも見ていたのか？』頭を傾げたあと蓮の隣へ再度腰を下ろす。
「まったく。あどけない顔して眠りやがって……」
眠っている蓮の柔い頬を軽く引っ張り、水木はつい先ほどまで着ていたスーツの上着を風邪をひかないようにと掛け。窓にもたれかかる蓮をゆっくり起こさないよう自信の方へ慎重に引き寄せた。
＊
夜行列車は、そのまま各駅に止まりながらも目的地付近へ、遅くはあるもののたどり着いた。夜は更け、美しい丸い満月は、すっかりと真上へ登っていた。水木は、自身のとなりで立ったまま眠りこけてる蓮の方へ視線を向ける。
「大丈夫か？」
『ん……大丈夫……』
職場にいるときとは違って、砕けたいつも通りの口調で話している。水木自身もそれを咎めることはなく、呆れた様子ではあるが、その瞳はどこか優しみを帯びていた。
「ほら、俺に捕まりなさい。満月と言えど夜道は暗いんだ。転んで、痛い思いをするのは嫌だろう？」
水木から差し伸べられた手を掴み取り、優しく腕を引かれながら、薄暗い夜道をゆっくりと二人で歩き始めた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 35人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
クジラ大好きマン(プロフ) - 仮主さん» お返事が遅くなり申し訳ありません。言葉を褒めていただきありがとうございます。まだまだ拙い文章力ではありますが、これからも頑張らせていただきます。 (4月18日 23時) (
レス) id: 774fe7f9f6 (このIDを非表示/違反報告)
仮主 - 言葉が綺麗と言いますか、美しいと言いますか,,,,,,何よりもこのような素敵な作品に出会えてよかった！ (3月29日 21時) (レス) @page10 id: 09812a6f88 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：クジラ大好きマン | 作成日時：2024年1月7日 11時
