見せない涙 (ページ10)

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ヒースクリフは、兵士達から私の姿を背で隠す。顔色も悪く、魔力も乏しいのに、ヒースクリフは私を守ろうとする。

「……」

ヒースクリフは胸元の前に右手を翳す。翳された彼の手からは淡い光が帯びていく。いつの間にか、彼の手の平の中には懐中時計が握られて居た。

「……」

ヒースクリフは手に持って居た懐中時計を強く握り締めて、静かに目を閉じた。

「レプセヴァイヴルプ・スノス」

呪文を唱えた。その瞬間。沢山の兵士達は人形の様にピタリと動かなくなった。

「……っ」

残り少ない魔力を使ってしまった為か、ヒースクリフは苦し気な様子で膝から崩れ落ちてしまった。

『大丈夫……？』

私の問い掛けへヒースクリフは小さく頷くと必死で立ち上がった。

「……大丈夫です……。急ぎましょう。直ぐに魔法は解けてしまう。急がなきゃ。ファウスト先生が……」

私は、よろめくヒースクリフを支える。彼が此処まで頑張る理由は、『ファウスト』と呼ばれた人物を助けたいからか。

「ヒース、無事か！？」
「……っ。大丈夫！」

余裕のないカインの声が階段上から聞こえて来る。

「賢者様、此方へ」
「……」

ヒースクリフに腕を引かれながら、人形の様に固まってしまった兵士達の間を潜り抜ける。もう少しで、階段の下に抜けられそうな時だった、。ぴくりと1人の兵士の身体が揺れ動く。

「……っ。魔法が解ける……」

ヒースクリフの焦った声音と共に兵士達に掛けられた魔法が解けて、兵士達が一斉に動き始める。

「……っ。賢者を捕まえろ！あれ？居ない？何処に行った！？」
「馬鹿！お前の後ろだ！」
「いつの間に！？逃がさものか……！」

動き始めた兵士達が私達を取り囲む。絶対絶命のピンチ。さて、どう切り抜けようか。張り詰めた空気感の中。特別驚いた様子も焦ることも無く。蓮は、そっと彼等に行く末を預けた。

10/1 手を引く者完