色をなくした世界 (ページ10)

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暫くして粉塵で見えづらかった視界がクリーンになり、辺りを見渡せば、下駄箱のすぐ側で倒れている一人の男性を見つける。

「……あっ」

思わず出てしまいそうな声を抑え込んで、私は急いで倒れている男性の方へ駆け寄った。

「……」

私の浅はかな行為で人を傷付けてしまった。すこしだけ後悔を抱きながら、倒れている男性の側へしゃがみ込む。救急車を呼ぼうとスマホをポケットから取り出した時、どこか聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。

「どうした？」

声が聞こえる方へ振り返れば、玄関口に昨日出会ったばかりの
青年が静かに無表情に佇んで居た。

「……リン？何があったんだ？」

意識を取り戻した男性が顔を手で覆ったまま身体を起こす。その時、地面に少量の血が一滴落ちる。

「……少し切ったな……。立てるか？」
「はい」
『……あの。すいません』
「謝罪は良い。この辺に医者は？」
『校門を出て直ぐの所に』
「手を貸してくれ」
『はい……』

どんな経緯があったとしても怪我をさせてしまったのは此方の落ち度で、手伝うのは当たり前のことだ。怪我をした男性へ向けて手を差し伸べようと腕を伸ばせば手を叩かれて拒絶されてしまった。

「結構です。貴女の手は必要ではありません」

嫌悪感と軽蔑のまなざし。私は、行き場を無くした手を下ろす。

『どうやら私の手は必要無いみたいなので、これで失礼します。この度は、怪我をさせてしまったこと本当に申し訳ございませんでした』

私は、男性を向けて軽く頭を下げて2人から背を背けた。嫌悪感を抱く人を無理に触る必要は無い。側からみたら最低な人間だと思われるかもしれない。けれども、明確な拒絶を見せる相手を態々と優しく甲斐甲斐しく手厚くする事もない。けど、怪我をさせてしまった事は、本当にごめんなさい。相手にそのつもりは無かったかも知れないが私を助けてくれた男性へ向けて心の中で謝罪をする。

1日の授業が終えて、私は鞄の中へと教科書とノートを仕舞い込んで帰る準備をして居た。

「あっれ？蓮ったら帰るの？昨日のホラ！渋谷先輩！来るっていったじゃなーい。合わないの？」
『ごめん。今日は少し用事があって……』
「うっそー！信じらんなーい！用事なんか放り投げてでも、あの姿をもっぺん拝みたいとか思わないの！？」

友人達は、すっかり渋谷の容姿に惚れ込んでおり蓮を置いて、黄色い声を上げて渋谷の事を語って居た。

「ね。場所どうする？此処じゃムードないじゃない？」
「また、視聴覚教室使おうか」
「ちょっと」